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【読書の学校】ブックトークフェスティバル2019

「あなたの悩みに選書でお答えします」磯上竜也×長江貴士×鎌田裕樹 司会進行・北田博充

2019年10月14日、梅田 蔦屋書店で行われた「ブックトークフェスティバル2019」の模様をお送りいたします。各回2時間の3部制、これを1日でやりきった大型イベントです。第5回までとメンバーを変えて、「あなたのための本」をテーマにしたトークをお届けします。

当日に会場に来られた方から悩みを募集し、その悩みに本で答える。とても楽しい試みをどうぞお楽しみください!

前回はこちら

北田:それでは時間になりましたので後半戦をスタートします。会場の皆様から募ったお悩み事とご要望に、登壇者の3名が選書でお答えします。たくさんのご投稿、ありがとうございました。控え室ではかなりバタバタでした。

鎌田:阿鼻叫喚でしたね。

北田:想像以上に大変な作業でした。

鎌田:「シン・ゴジラ」の会議室ぐらい切迫してました。

北田:それでは、鎌田さんから。

鎌田:はい。前半に少し恋愛の話題が出たので、恋愛に関するご要望からいきます。「すてきな恋をしたら読んでほしい本はありますか。中学を卒業するときに司書の先生から1冊の本を教えていただいたのですが、皆さんにも聞いてみたいです」というご要望です。

「この世界の片隅に」のこうの史代さんが描かれてる『長い道』(双葉社)という夫婦の漫画がありまして。本当にイチャイチャしてるというか。

磯上:イチャイチャしてるだけみたいな。

鎌田:なんか、この家の子どもに産まれたいみたいな感じになる漫画。

長江:幸せしかないみたいな。

鎌田:幸せがたっぷりあるというか。奥さんが昔の知り合いに会って、ちょっとときめいてるのを見てめちゃくちゃ嫉妬するとか。そういうのも含めて、これ好きな人がいるときに読んだら楽しいだろうなという。残念ながら今僕はあんまり楽しく読めないんですが(笑)

 

北田:じゃあ、次は長江さん。

長江:これはなかなか面白い質問でした。「本を好きな人は好きですが、彼氏は本が嫌いです。そのせいで彼氏を嫌いになりそうです。本が嫌いな人のことを好きになれそうな本はありますか」というご要望です。

僕がお薦めする本は、渡邊十絲子さんの『今を生きるための現代詩』(講談社)です。僕、子どもの頃から国語の授業が大嫌いだったんです。今でこそたくさん本を読んでいますけど、元々理系の人間なんで。で、この本に何が書いてあるかというと、人々は詩との出会いが悪すぎるって書いてあるんですよ。だいたい学校の教科書で詩と出会うけど、授業で解釈を求められて、おまけに試験を受けなきゃいけないと。あんな形で詩と出会ったら、みんな嫌いになるに決まってる、って書いてあるんですね。たしかにその通りだなと思って。小説もわりとそういうところがあると思うんです。まったく本を読まなかった国語嫌いの僕が、こうやって本を薦める側になることもあるので、結局は出会い方とかきっかけの問題なんです。渡邊十絲子さんが「それは出会い方が悪いよね」って言ってくれると、その彼氏さんも出会い方が悪かっただけなのか……って思えるんじゃないでしょうか。

北田:次は磯上さん。

磯上:これも結構難しかったです。「自分の価値観がひっくり返るような、新しい世界が開ける本を教えてください」というご要望です。どういう価値観をお持ちなのかにもよりますけど、日本だと結構定職に就かないといけないとか、そういう感覚があるじゃないですか。でも、ローベルト・ヴァルザーの『ローベルト・ヴァルザー作品集 1 タンナー兄弟姉妹』(鳥影社、新本史斉、F・ヒンターエーダー=エムデ 訳)を読んでると、そういう価値観が壊れます。主人公のジーモンがすごくフラフラしている人なんです。小説の冒頭で、いかに自分が本屋に向いているかということを店主にアピールして雇ってもらうんですけど、もうその数ページ後には「こんな面白くない仕事ないわ」と言ってすぐに辞めるんですよ。そこからはどんどんいろんな所に行っては、すぐに悪態をついて辞めたりとか、ずっとフラフラし続ける小説で、それを読むと、なにか1つのことをやっていたりとか、どこか1つの場所にいること自体どうなんだろう、というふうに思えてくるんです。そういう意味で、結構価値観が壊れる小説かなと。

北田:それでは、一巡したのでまた鎌田さん。

鎌田:「友達のことで悩んでいます。どういう関係の人を友達と呼ぶのか。友達ってなんだろうという問いに、答えのきっかけをくれる本を教えてください」というご要望です。

重松清さんの本や菅野仁さんの『友だち幻想』(筑摩書房)はもう読んでいらっしゃるということだったので、ここは北田さんが出版された本をお薦めしたいなと。

北田:忖度じゃないですよね。ありがとうございます。

鎌田:横田創さんという小説家の『落としもの』(書肆汽水域)という小説集で、僕も裏表紙に推薦文を書かせてもらったんですよ。

磯上:ズブズブじゃないですか(笑)

鎌田:「正義とは相対的なものであって、向けられた者にとっては迷惑でしかない。他者を自らの中に抱え込んでしまう耐えがたさ、善意を踏みにじられたときに渦巻く気まずさ、ほかの誰でもなく自分にあてられた作品だと思いたい」という推薦文を書きました。著者の横田さんご自身にお会いする機会がありまして、「鎌田君、人のマナーが悪いのとか許せない人でしょ」って言われて、「そうです」って答えたら、「人との境界線をなくしているのはこっち側なんだよ」って言われて。僕が他人を自分の中に落とし込んじゃっているということに気が付きました。表題作の「落としもの」は、人のマナーを許せない女性の話なんですけど、あまり相手には期待せずに友達付き合いしていくと意外にうまくいくんじゃないかな、と思わされる小説でした。めちゃくちゃ面白い小説集なので、ぜひ読んでいただきたいです。

磯上:なにか補足されますか?

北田:いや、鎌田さんが完璧なレコメンドをしてくれたので(笑) 僕は他人に「その気持ちわかりますよ」って言われるのが嫌なんです。私とあなたは異なる人間なんだから、同じ気持ちになるわけないんです。でも、そう考えている僕のような人間でさえ(だからこそ?)、他人を私扱いしてしまうんです。他者との関わり方に悩んでいる方にぜひ読んでいただければと思います。

では、長江さん。

長江:2つ似たようなのがあるので同時にいきますね。「先日勤めていた職場を退職しました。別業種への転職を進めているのですが、一生ささげたいと思うほど前の仕事が好きだったこともあり、前向きになれません。そこで「進路に悩む大人に贈る本」を選書していただきたいです」というご要望と、「好きではないが給料のたくさんもらえる仕事と、自分にとって価値はあるが収入の下がる仕事で悩んでいる。仕事を考える上での価値観を改めてさせてもらえるような本を教えてほしい」というご要望です。

2冊選んでみました。イケダハヤトさんの『年収150万円で僕らは自由に生きていく』(星海社)と、木暮太一さんの『僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?』(星海社)です。前者は、ブロガーのイケダハヤトさんがブログで生計を立てているんですけど、別に地方でもよくない?とか、そんなに年収バリバリもらってもしょうがなくない?とか、お金と仕事の関係みたいなものを今までの形でいいの?って問い掛けてくるような本です。後者は、マルクスの資本論をベースに、サラリーマンの給料がどう決まっているのかをすごく分かりやすく説明している本です。サラリーマンの給料がどう決まっているのかが分かれば、じゃあ、それをどう上げればいいのかが分かるということが書いてあって、もちろんそれは給料が上がればそれでいいのかって話じゃなくて、得られたものからマイナスの部分を引いた残りが大事だって書いてあるんですよね。例えば、すごく収入をもらっても、すごくハードワークで大変だったら残るものは少ないし、逆に給料が少なくてもマイナスが少なければ、残るものは大きいという、その残るものが大事だと書いてあるんです。だから給料が高いかどうかじゃなくて、最後にどれだけのものが残るのかを考えたほうがいいよということです。2冊とも働き方について考えさせられる本です。

        

磯上:次は僕ですね。「このイベントスペースは鉄道が見えるいい場所で旅に行きたくなりますが、旅に出たくなる気持ちになれる本はありますか」というご要望です。

僕は出無精なんでほぼ旅に出ません。普段からあまり出歩く気にもならないんですけど、すごく好きな本があって、内田百閒の『阿房列車』(新潮社)です。

内田百閒は鉄道で旅をするのが好きな作家なんですけど、まあどうしようもない人で、ずっとグズグズしていたりとか、ほぼ何もせずに行って帰ってきて「楽しい」と言うような人です。僕の中でイメージする旅って、観光地を巡ってとか、行った先でなにかしないといけないとかって感覚があるんですけど、そういうのではなくても旅としてちゃんと成り立つし、その人なりの面白さというのを見つけられるんだというのをすごく読んでいて感じました。内田百閒(うちだひゃっけん)は『阿房列車』以外の作品も全部お薦めなんですけど、旅に出たくなるということではこれが一番いいかなと思います。

北田:次は鎌田さん。

鎌田:はい。一つ気になるのがありました。「妹が二児の母親です。子育てのママが元気になれる本はありますか」というご要望です。

僕には姉が2人いまして、2人とも母親なんですけど、姉の1人は僕が中学3年生のときに子どもを産んで、年子でもう1人生んだので、僕が高校生のときには赤ちゃん2人と一緒に暮らしていたんです。だから、2児の母親の大変さというのはすごく分かるんですけど、もろに「これ元気出るよ」という本をお薦めしてもきっと受け付けないはずなので、今年刊行された、詩人の斉藤倫さんの『ぼくがゆびをぱちんとならして、きみがおとなになるまえの詩集』(福音館書店)という小説を選びました。石垣りんとか、まど・みちおとか、いわゆる名作詩を小説の中に挟み込んで紹介するという短編集です。福音館書店から出ているので、厳密に言うと小学生向けのやさしい本です。小学生の「君」がおじさんの「僕」の所に来て、「今日学校でこんなことがあった」とか、「正しい日本語を使いなさいと言われた」とか、そういうときに詩を紹介して、答えの出ないようなことを一緒に考えていくという本です。

長江:じゃあ、僕はこれ。「人生のほろ苦さ、でも、少しの希望を感じられる本」というご要望です。

平谷美樹さんの『でんでら国』(小学館)という小説を選びました。僕、一時期盛岡に住んでいたんですけど、盛岡に行かなかったらきっと読まなかっただろう岩手出身の作家さんです。『でんでら国』は幕末の時代、岩手の大平村という架空の村で姥捨(うばすて)が行われているというお話です。60歳になったら口減らしのために、老人は自ら山に入って姥捨にならなきゃいけないんです。一方で、税金の取り立ての役人の話が出てくるんですけど、その大平村がすごい大飢饉(ききん)のときも税金を全額納めていたと分かり、あそこの村はなにかあるぞと言って、密偵を出すんですよ。

北田:この段階でめちゃくちゃ面白そう。

長江:60歳になった人が山奥に自ら入って行くと、その山奥に「でんでら国」という別の国があるんですね。そこは60歳以上の人しかいない国なんです。そこで米を作っているから大平村ですごい飢饉になったときにも、作っていた米で税金を払えたんです。秘密の「でんでら国」を探ろうとする役人と、その「でんでら国」に住んでる人たちと、60歳以下の人たちの戦いの話です。

北田:めっちゃ読みたくなってきました。

長江:めちゃくちゃ面白いですよ。やっぱり60歳で姥捨という大変な状況でほろ苦さもあるんですけど、60歳になったら別の世界があるわけです。それはある種の希望というか、今後高齢化社会の中でいろいろ大変なことがあると思うけど、この「でんでら国」みたいなやり方って1つの可能性になるんじゃないかなと思って。

                

北田:次は磯上さん。

磯上:「向田邦子のように自分の生活や日常をほうふつさせるような、人とのつながりを感じさせるような本があれば教えてください」というご要望です。こちらも北田さんが出版された本ですが、『多田尋子小説集 体温』(書肆汽水域)を選びました。

北田:なんかすみません、選んでいただいて(笑)

磯上:人物描写が上手でめちゃくちゃリアルなんですよね。無駄がない描写で淡泊ではあるんですけど、すごく人の体温を感じられるような小説集で、向田邦子さんの小説に近いのかなと思いました。会話の妙だと、田辺聖子さんにも通じるものがあるかもしれませんね。

北田:多田尋子さんは、歴代最多となる、計6回芥川賞候補にノミネートされた作家さんで、古風ではあるんですけど、何十年経っても古びることがない、長く読み継がれるべき小説集だと思います。

最後に長江さんお願いします。

長江:じゃあ僕、かぶっちゃうんですけど、「自分の価値観がひっくり返るような新しい世界が開ける本」で、デイヴィッド・イーグルマンの『あなたの知らない脳』(早川書房、大田直子 訳)をお薦めしたいです。

人間って意識に支配されているように思えるかもしれないんですけど、実は無意識に支配されてるんだってことが書かれていて。意識が脳の中でアクセスできる部分ってほとんどなくて、ほとんど無意識なんです。だから、人間は自由意志がないって、今脳科学の世界では割とそういうふうに言われているんです。例えば、僕が今こうやって手を伸ばしてこれを取りたいと思ったとします。普通に考えれば、「取りたい」と思ってから手が動くはずなんですけど、実は手が動いてから取りたいと思うらしいんですよ。「取りたい」というのは意識なんだけど、手を動かすのは無意識なんですよね。つまり、無意識に僕らは支配されていて、僕らの意識の中でコントロールできることはほとんどないわけです。これはびっくりしますよね。自分がしたいことが、本当に自分のしたいと思っていることなんだろうかって、考えさせられます。

北田:ありがとうございます。ついに終わりの時間になってしまいました。どうなることかと思いましたけど。

鎌田:なんとかなりましたね。

長江:なんとかなったんじゃないですか。なったと僕は思っていますけど。

磯上:そう信じたい(笑)

北田:いただいたご要望の3分の1ぐらいには答えられたと思います。すべてにお答えできず申し訳ありませんでした。ご投稿くださった会場のお客様、ありがとうございました。

次回より再度メンバーを変えて、ブックトークをお送りいたします。ぜひご覧ください!

磯上 竜也(いそがみ たつや)
1987年、大阪府生まれ。2018年9月に閉店した心斎橋アセンスで7年間務め、文芸をはじめ様々なジャンルを担当。2019年4月に大阪・本町のビルの一室に「toi books」を開店する。
 
鎌田 裕樹(かまた ゆうき)
1991年、千葉県生まれ。大学入学を機に京都に移り、学生時代から書店でアルバイトをする。その書店の新規店舗で店長を務め、2015年で退職。その後は、恵文社一乗寺店で書店部門のマネージャーを務める。
 
長江 貴士(ながえ たかし)
1983年、静岡県生まれ。大学中退後、神奈川県の書店で約10年勤務し、2015年に岩手県盛岡市のさわや書店に入社する。清水潔『殺人犯はそこにいる』の表紙をオリジナルのカバーで覆って販売した「文庫X」を企画。現在は出版取次会社に勤務。

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