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【読書の学校】ブックトークフェスティバル2019

「書店員の教科書」北田博充(二子玉川蔦屋家電)×北村知之(梅田 蔦屋書店) 司会進行・三砂慶明(梅田 蔦屋書店)

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三砂:第3回は、本の売り方についてお聞きします。本屋の店頭から全国規模のヒットになった本は、実は結構ありますよね。

『白い犬とワルツを』(新潮社)は、いまはもうありませんが千葉県津田沼の「BOOKS昭和堂」が発火点になりましたし、社会現象にまで成長した『蟹工船』ブームの火付け役はブックエキスプレス ディラ上野店でした。数ある仕掛けの中でも異色だったのは、今回のゲストの長江貴士さんが仕掛けた「文庫X」です。私たちは結果を見がちですが、実はこの企画に至るプロセスが重要で『書店員X』(中央公論新社)を読むと長江さんが何を考えて、そこに至ったのがよくわかりました。お二人に聞いてみたいのは、そういう書店の本を売る技術についてです。もしくは、印象に残っている売り方があれば教えてほしいです。

北村:それは明確にありますね。北田さんがリーディングスタイル時代に企画した、バースデー文庫です。

一同:ああ。

北田:それ来ますか。

北村:素晴らしい企画です。1月1日から12月31日まで、うるう年も含めて一年366日の誕生日の作家や著名人の文庫をピックアップして、オリジナルカバーを巻いた新しい商材として販売したんですね。例えば、1月1日は、高橋源一郎の『さようなら、ギャングたち』(講談社)

北田:たしかに、めちゃくちゃ売れましたね。

三砂:どれぐらい売れたんですか?

北村:1日300冊くらい売れるから、当時のリーディングスタイルのスタッフは、閉店後ひたすらカバー巻きをしていたらしいです。

北田:一番売れた日だと、1日で400冊近く売りました。

三砂:そんなに売れたんだ(笑)

北村:売れたということもすごいけど、誰にでもわかりやすいアイデアと、内容的にもきちんと選書されたクオリティが両立されているのが、すごい。しかも、『白い犬とワルツを』や『蟹工船』みたいな単品ではない規模の商材だし。本をブラインドで売るやり方は、飛び道具なんですけれども、いい本をただ真っすぐ愚直に売りたいみたいな原理主義的な、保守的な書店員の考えと全然違うことをできる。それをできるというのはすごいですよ。

 さらに、北田さんは「書肆汽水域」で、いわゆる文学好きに刺さるストロングスタイルもやってるし、その真逆のようなバースデー文庫みたいな企画もやれる。どちらか一方ができる人は他にもいますが、両方をできる人はほとんどいない。

北田:過去にリーディングスタイルの頃にやっていた仕事と、今、書肆汽水域でやっている仕事って、揺り戻しみたいな感じなんです。普段本を読まないような人をターゲットに風変わりな本の売り方をしていた過去から比べると、今は奇を衒わず、自分の手で作った本を自分の手で丁寧に売りたいと思っています。

北村:書店員にとって一番難しいことじゃないですか。それで結果を出すのは。

北田:お店(マルノウチ リーディングスタイル)がはとバスの乗り場に近いので、いちげんさんとか観光のお客さんがふらっと来る。本に興味がなく、お茶だけしていくお客さんがすごく多くて。そういう人に買って帰ってもらえるお土産みたいなものがあったらいいなと思って最初は考えたんですよ。実際怒られたりもしましたけど。

三砂:ちなみにどんなことで怒られるんですか?

北田:本を雑貨みたいに加工して売るな、とか。まぁ、そういう考え方の人もいますよね。

三砂:お土産は、私もずっと考えていて。考えてるだけなんですけど、いつかなにか形にしたいなと思っています。バースデー文庫で聞いてみたいのは、内沼さんのことです。書店員の教科書でもあげてもらいましたが、北田さんにとって内沼さん(内沼晋太郎・本屋 B&B)はどういう存在なんですか?

北田:影響はすごく受けていると思いますね。

三砂:たぶん、内沼さんが初めてですよね。隠して売るみたいな(文庫本葉書)。

北村:いや、紀伊國屋の本の枕が先じゃないかな。

三砂:その前にもあったんですか。

北村:あまりないですけれどもね。だから内沼さんのあれもアイデアとしては面白いけれども、それでめちゃくちゃ売ったか、みたいなところではないですしね。スタイリッシュな本の売り方の1つみたいな感じはあった。

三砂:そうなんだ。なるほど。

北田:北村さんって、数を売るのってどうなんですか。

北村:どうなのかな……。どういう店で働いているかというのがまずあって、今、自分がいる梅田 蔦屋書店だったらやっぱり数を売るのはすごく大事だなと思っていて。例えば、前のスタンダードブックストアでは、客層も違うし本の売れ方も違うから、今とは違う考え方で棚を作っていましたけど、その中でもスタンダードのお客さんに対して数が売れるタイトルというのを常に探していたなというのはありますね。スタンダードブックストアではガチガチのセレクトショップをやっていましたけど、それも自分の好きな価値観を反映したというよりは、そういう本屋が好きなお客さんに向けて棚を作っていました。

三砂:北田さんはどうですか。

北田:僕は数をどんと売ってもあまり快感は得られないですね。文芸誌の『しししし2』(双子のライオン堂)にも少し書いたんですけど、僕は100冊売れたとしても、1つの本を100冊売ったとは考えず、1冊の本を100人に売ったと考えるタイプなんです。なにを売るかはもちろん大事なんですけど、それ以上に誰に売るかの方に今は興味があります。昔はそうじゃなかったんですけどね。

三砂:なぜ変わったんですか?

北田:「書肆汽水域」で本を作ったことによって、自分で作ったものを自分で卸したり売ったりするようになってからそう考えるようになりました。だから、誰に売りたいか、誰に売ってほしいかをまず考えますね。売ってほしいなと思う本屋には遠方でも直接営業に行きますし。例えば1万冊、ばーっと売れたとしても、その1万人のうちの誰に売ったのか顔が分からなかったり、読んだ後どう思ったのか分からなかったりというのが切ないなと。

北村:北田さんの話を伺って思い出しましたが、昨日、水無瀬にある長谷川書店の長谷川稔さんと飲んでいて、ちょうどそういう話になりました。長谷川書店は、阪急京都線の水無瀬駅っていう普通しか止まらない駅の駅前にある30坪くらいの書店ですが、業界関係者にもファンの多いお店です。駅も小さくて町も小さくて、お店も大きくはない。そういう書店で、「じゃあマスに向けて本を売るというのはどういうことなのか」、みたいなことを話し合ったんですね。そのときに長谷川さんが言ったのは、「10冊同じ本を売るんやったら、1対1を10回やりたい」ということなんですよね。

北田:そう。まさにその感じです。

北村:なるほどな、と。最大公約数的にハマるタイトルを探して、そこに当て込んだアプローチで本を売るほうが小売業としては効率が絶対にいいんですけども、それだったら1対1を10回やりたいという話になったんです。それも情緒的な話ではなくて、今、商売としてお店を継続させるためには、絶対に必要な考え方だと思います。さっき名前をあげなかったですが、長谷川さんも尊敬する本屋の一人ですね。同じように書店の店頭に立って働いていますが、見えているものがぜんぜん違うなといつも気づかされます。

北田:そもそも僕は不特定多数というのが嫌いなんです。1対1じゃないものが嫌いというか気持ち悪くて。例えば寄せ書きとか(笑)。うちの「書肆気水域」は特定のこういう人に向けて作りたいというのが常にあるので、誰彼構わずたくさん売れりゃええねん、みたいなのじゃないですね。

北村:書店員としては、もちろん売上を最大化することを目的としていて、売上という基準がないと自分の仕事がブレると個人的には思っていますが、ただそのために最大公約数的な本棚を作ると、結局誰のためでもない棚になって、誰のためでもない店になって、結局誰にも支持されなくなってしまう。

三砂:難しいですね。

本を売ること

三砂:現実的に、ある程度の規模の書店で働きながら、一冊の本を100人に売ることは可能ですか?

北田:どうでしょうね。100人というのはあくまで例えなのでなんとも言えないですが、相手のことを知らないマス相手に本をたくさん売るよりは、1人のお客さんに1対1で本を売る方が僕にとっては幸福度が高い。1対1で本を売ることは大きい店で働いていてもできることだと思いますよ。

 今のお店に78歳のおじいちゃんの常連さんがいるんですが、自分なんかよりめちゃくちゃたくさん本を読んでいて、いつも面白かった本の情報交換をしています。そのおじいちゃんは読書メーターをやっていて、僕にハンドルネームも教えてくれているので、おすすめして買ってくださった本の感想が読めるんです。好きな作家や合わなかった本の傾向がわかるし、次にこういう作家をおすすめしてみようかな、という判断材料にもなる。

北村:なるほど。

北田:気に入ってもらえた本が分かるんです。赤松利市とか連城三紀彦とか。

三砂:読書メーターに挙がってくるんだ(笑)。

北田:そう。挙がってくるから「これが気に入ってもらえたのか……」と。それが楽しい。なんかぽーんと仕掛けて売れたみたいなのはそんなにね……。そのお客さんが喜びそうなものはなんだろう、と考えるのが楽しいです。

三砂:それはわかる気がします。うちのお店も開業した直後から通ってくれてるお客様が何名かいて、学生のときから通ってくれていたお客様は、この前、大学を卒業して、「JRに就職しました」って報告にきてくれました。働きながら吉本隆明の研究をされていて、晶文社の全集をコツコツ買いにきてくれます。

北田:すごいですね。

三砂:ほかにも尋常ではない本の買い方をされる常連のお客様がいて、読書会にも参加してくださってたので、お話を聞くとビブリオバトルのチャンピオンでした(笑)。

 駄目な話もしておくと、私がはじめてイベントを企画したときから通ってくださるお客様がいて、開業時から毎回、たくさん本を買ってくださるんですけど、この前、ふとしたときの雑談で、私が勧めた本は、「勧められたときは面白そうだけど、実際に読むと……」といわれました。

北田:駄目じゃないですか(笑)。

三砂:もう4年ぐらい買ってもらっているんですけど。

北田:結構長いですね(笑)。

三砂:まだ一度も「良かった」と言ってもらえてない。

北田:そろそろ正解を出したいですね。

三砂:そうなんですよね。

北田:そのうちたどり着くんじゃないですか。僕は読書メーターで答え合わせですから(笑)。

三砂:北村さんはどうですか。

北村:個人的なつながりで言えば、海文堂のときのお客さんで、その後のスタンダードブックストアにも、今の蔦屋書店にも来てくれている人が何人かいますね。それも転職先を伝えたりしていないので、たぶんウェブとか雑誌とかなんかで知ってわざわざ来てくれているんだと思います。他にも、今の職場の店内で、「以前、スタンダードブックストアにいませんでしたか」と声をかけられたり、レジで会計をしていたら顔と名札をまじまじと見て「あなたは海文堂にいた北村さん?」と言われたりすることもあって、憶えてくれているんだな、と。やっぱり日々の仕事を疎かにできないなとあらためて思いますね。

三砂:それは嬉しい話ですね。北村さんは本を売ることについてどうお考えですか?

北村:売上とか数字を追いかけるのって、売れればなんでもいいというのでもなくて、それだけたくさんの人に対しての需要に応えられたというところがあると思うんです。僕は仕事として、それが本当にただ単純に楽しい。

北田:売り上げを上げることは楽しいですよね。

北村:そうです。会社に評価されたくて、売上を上げたいわけではなくて。それだけたくさんの人の役に立ったなというのが嬉しいというか。

三砂:なるほど。北村さんにとって書店員の面白さというのは、具体的に言うとどういうところにあるんでしょうか?

北村:書店員として社会にコミットしているというか、僕は社会との接合点が「本を売る」ということなので。だから、その部分で規模は関係ないといえば関係ない。

三砂:本を渡すこと自体が、ということですか。

北村:そうですね。福田恒存ではないですが、書店員という役割を引き受けてこの社会に存在しているんだと思っています。

北田:本が売れた数だけなにかが起こる可能性があるわけですもんね。ツルハシブックスの西田さん(西田卓司・ツルハシブックス)という方は、一時期サンクチュアリ出版の営業をされていて、地方のヴィレッジ・ヴァンガードへ営業に行ったとき、コーヒー屋をやるための本とか、お店を始めるための本とかが全く置いてなくて、「そういうのを置いてみたらどうですか」と提案してみたそうです。その1年後、同じ店に営業に行ったら、お店の作り方について書かれた本のコーナーができていて、そこの店長が「この棚を作ってから、この近所に3軒コーヒー屋ができた」と言っていたそうです(笑)。

北村:すごいな。

三砂:だいぶ社会にコミットしてる(笑)。

北田:本を売ったら、その先でなにかが起こる可能性があるということですよね。売った本の数だけ、なにかが起こる可能性は増える。そのことに想像力が働く人ほど書店員に向いているのではないでしょうか。

三砂:本屋が町にあることで、その町自体に影響を与えている。実際の話を聞くと勇気をもらえますね。喫茶店ができたというのは、はじめて聞きましたけど、本で人生がかわり、町もかわるっていうのは、夢のある話ですね。

書店員のモチベーション

三砂:少し目線をかえて質問させてください。書店員をやるモチベーションってなんですか。

北田:モチベーション? なんか恥ずかしくて言えないですよね。

三砂:じゃあ私から(笑)。

北田:どうぞ言ってください。

三砂:よく考えてみたんですけど、結局のところ誰よりも自分が面白い本を読みたいに尽きるんじゃないかと。これは恥ずかしながら小学生ぐらいから何も変わってないからたぶん本音だと思います。一番の理想は、北上次郎さんが構想された「日本読書株式会社」です。北上さんの新刊『書評稼業四十年』(本の雑誌社)も無茶苦茶よくて、「本を読んで暮らしたいだけだった。」は、刺さりました。今年も、北上次郎さんのイベント「どこよりも早い 2019年エンターテインメント・ベスト10」を企画させてもらえて、自分にとっての神様に会えるというのは、書店員冥利に尽きるというか、生きててよかったと思います。北村さんは?

北村:モチベーション、なんやろうな。僕たちが所属している蔦屋書店は、今後、全国に店舗展開していくことを目的にしていますよね。今、個人経営のセレクト型の書店は増えていて、僕もそういうお店が好きでよく行くし、友だちの店も多い。ただナショナルチェーンであれセレクトショップであれ、好きな店を選べるのって、既に書店とか本に対して面識のある既知の読者だと思うんです。けれども、それ以前の、まだ本に対して未知の子供が本に出会える環境が無くなっていて。書店の未来を考えると、近所にあって、日常的に通えて、雑誌でも漫画でも買えるみたいな環境が保たれることがなにより大事なんじゃないかと思います。0を1にするというのはそういうことなのかなと。蔦屋書店では、そういう仕事をやりたいと思っていますね。

三砂:あえてお聞きしますが、書店の空白地域に対する個人的な思いや背景があるんでしょうか?

北村:閉店も経験してますしね。どんなに褒められるような棚を作っても、店を作っても、売れなきゃ意味がないというのは身に染みていますし。それに子供は看板で本屋なんて選ばないんですよね。生活圏にあるというのが一番大事です。生活圏から本屋がなくなれば、本屋に通う習慣がなくなって、本を買う習慣も、読む習慣もなくなります。

北田:そうですよね。

三砂:たしかに。まさに『本屋がなくなったら、困るじゃないか』ですね。じゃあ北田さん。

北田:え? なんの話……。

三砂:本屋をやるモチベーションですよ(笑)。

北田:モチベーション……。あるようでないですけれどもね。ああ、もう終電ですよ。

三砂:え? こういう終わり方?(笑)

北村:まだ行けるんじゃない?(笑)。

北田:モチベーション……。

三砂:数ある職業の中から、北田さんだったら、いろいろな職業を選べるわけですよ。

北田:いや、たぶん選べないんですよ。自然にこうなっちゃっているんで。

三砂:そんなばかな(笑)。

北田:でも、ほかにないですからね。僕はやりたいことをやっているだけだし、仕事だからやっているだけです。これが趣味ならこんな苦しい思いをして真剣にやらないですから。

三砂:ありがとうございました。では、北村さんの「書店員の教科書」をお願いします。

梅田 蔦屋書店 文学コンシェルジュ
北村知之氏が選ぶ「書店員の教科書」5冊

北村:引っ越したばかりで、本を段ボールから開けられてなくて。そのせいで5冊全部そろえられなかったんです。どこかにはあるんですけれども、ちょっと見つけられなくて。ぼくが選んだのは、早川義夫『ぼくは本屋のおやじさん』(筑摩書房、早川義夫)

『ぼくは本屋のおやじさん』 本屋の本のど定番ですね。元々晶文社の「就職しないで生きるには」シリーズの1冊で、今はちくま文庫で読めます。その次は、沖縄の市場の本屋ウララの宇田智子さんの『本屋になりたい この島の本を売る』(筑摩書房、宇田智子)

これを初めて読んだときは、『ぼくは本屋のおやじさん』以降の本屋の本はこれでとどめを刺すんじゃないか、と思いました。

北田:えー、そんなに凄い本なんですね。未読なのですぐに読みます。

北村:あと、Titleの辻山さんの『本屋、はじめました』(苦楽堂、辻山良雄)と、誠光社の堀部さんの『街を変える小さな店』(京阪神エルマガジン、堀部篤史 著)と、正直4冊で、あとはあまり思い付かなかったんですけれども、本屋の本で、『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社、ブックオカ 編)というのを選びました。

『本屋がなくなったら、困るじゃないか: 11時間ぐびぐび会議』

『本屋がなくなったら、困るじゃないか』は、最初にも少し話しましたが、ブックオカで書店、出版社、取次、読者が集まって、本と流通について本音で語り合ったトークを収録していて、この分量がすごいなと思います。

三砂:まさに書店員の教科書ですよね。

北村:全体的な選書理由は、自分が本屋をやりながら日々漠然と感じていたことが、言語化されているということです。まず『ぼくは本屋のおやじさん』から、その部分を読みますね。未来社の西谷能雄の『出版流通機構試論』を読んだときの感想です。

 優れた読書人、まともな本、本の分かる取次人、目利き、心ある書店人、僕はこれらの言葉にどうしても引っ掛かる。これらの形容詞さえなければ、もしかして氏の文章に共感を覚えたかもしれない。そのくらいそれらの言葉を使う姿勢が気になるのである。優れたとか、まともなとか、本の分かるとか、心あるという言葉を巧みに使って、いわゆる良書を売ろうとするやり方は、ますます氏が恐れている活字離れを生むような気がする。

 毎日書店の店頭に立って、荷開けして、品出しして、接客してってやってると、本当にこれをめちゃくちゃ思うんですよね。「俗に言う良書と悪書があるとする。しかし、良書を読んでいる人間が必ずしも良い人間とは限らない。売っている人間も作っている人間も同じことだ。これは本屋をやっていてつくづく思う。みんな同じ人間であり同じ本なのである」。

三砂:いい話だなあ。

北村:めちゃくちゃ響くんですよね。この本が出た、1982年から30年後に本屋をやっている人間ってやっぱり同じことを考えている。

三砂:早川義夫さんて、歌手じゃなかったでしたっけ?

北村:そう。元々「ジャックス」というグループサウンズのボーカルで、そういう商業主義みたいなものが嫌になって「ジャックス」を辞めて、本と本屋が好きやったから、修行して本屋を始めて、十なん年か本屋をやって辞めて、またシンガーソングライターに戻るという人ですけれども。そのシンガーソングライターになった後のエッセー集(『たましいの場所』)もすごくいいですね。こんな風に書ける人は他にいないと思います。

三砂:本音で書いているということですね。

北村:次の『本屋になりたい』の宇田智子さんは、元ジュンク堂で、そこから独立して那覇で古本屋さんをやっています。

『本屋になりたい この島の本を売る』

 一流書店を辞めて、那覇の公設市場のそばで三坪の古本屋をはじめる、しかも若い女性という、わりと物語性が強く出てしまっていて、逆にこの本の価値をちょっと見えにくくしている。そういうのがなかったとしても、素晴らしい本です。ジュンク堂時代の本屋としての価値観と、現在の古本屋としての価値観を行ったり来たりしながら、本屋とはなんなのかを考えている。今、新刊書店と古書店の隔てのない本屋が増えていますよね。粗利の問題とか仕入れの問題とかで古本をメインの商材にせざるを得ないけど、新刊も扱っている。

北田:「『古本屋』って名乗るのが嫌だ」って言う方もいますよね。「『本屋』って名乗ってる」って。僕も「本屋」でいいやん、と思います。

北村:この本にも、『ぼくは本屋のおやじさん』と同じことが書かれていると思います。めちゃくちゃ大切なことです。その部分を読みますね。

 自分で本屋をやってみて、『本が好き』とはあまり言いたくありません。『本っていいよね』と言っているだけでは、本が好きな人しか来てくれない気がする。本は好きだけれども、好きでない本もたくさんあります。でも、そんな本もひっくるめて気になります。どんな人がこの本を読むのだろうか、どこで買うのか、それとも借りるのか、誰が書いて誰が編集したのか、装丁は誰か、帯やしおりは付いているか、何部刷ったのか、在庫はまだあるのか、増刷はするのか、どの棚に置かれるか、平積みされるか、書評は出るか、読者としても本屋としてもなんでも知りたい。本に関わる方法は、読むことのほかにもたくさんあります。本屋で棚の間を歩く、背表紙を読む、箱から出して見る、抱える、比べる、匂いをかぐ、部屋に飾る、脇に抱える、人に贈る。最初から最後まで読まなくても本に親しむことはできるし、好きなように付き合っていったら、と思います。

 そもそも書店でずっと働いていると、本原理主義になりがちになってしまって、そうじゃない人のことが見えなくなってしまう。もしくは自分の好きな本以外を疎かにしてしまう。それは本当に良くない。本屋として最悪で、本への愛を正義だと勘違いしているだけです。自分が嫌いな本を読む人ってどんな人だろうと想像できる、そういうエンパシーの能力こそが一番大切だと思います。

三砂:それはまさしくジュンク堂のDNAですね。

北村:ジュンク堂の血脈(笑)。

三砂:これまた勝手につなげると、福嶋さんが『希望の書店論』(人文書院)で、「魅力ある書店の棚づくり」で問題提起をされていて、そこに「「棚」のグレードは、読者との関係の中にしかない」と断言されています。

北村:なるほど。確かに本の価値って、いろんな考え、趣味嗜好の人間がいることを知れることで、その多様な人間のルツボであるのが本屋の魅力なんだと思います。辻山さんの『本屋、はじめました』と、堀部さんの『街を変える小さな店』は、職業書店員としての経験値の高さが伺えて、すごく勉強になります。

『本屋、はじめました』

 辻山さんは、あの立地だから今のTitleみたいな店作りをされているけど、たぶん違う場所であればまったく違う店をやっているんだろうなと思います。逆に、堀部さんはどの場所であっても誠光社のような店を作るんじゃないかと思うんですよね。

『街を変える小さな店 京都のはしっこ、個人店に学ぶこれからの商いのかたち。』

 でも、どちらもリブロと恵文社で試行錯誤しながら獲得したんだろう、それぞれの書店哲学がある。そのうえで持続的な生業として本屋を営んでいるわけです。同時代の書店員として、やっぱり意識しますよね。

三砂:ありがとうございました。皆さまにお話を伺えて勉強になりましたし、ますますブックトークフェスティバルが楽しみです。ブックトークフェスティバル2019は10月14日に開催します。

 午後1時から北田さん企画の「あなたのための本」です。ゲストに、磯上竜也さん(toi books)、鎌田裕樹さん(恵文社一乗寺店)、長江貴士さん(リーディングスタイル)をお迎えします。

 午後4時からは三砂が企画の「はじめての一冊」です。ゲストに、福嶋聡さん(ジュンク堂書店難波店)、田口幹人さん(リーディングスタイル)、徳永圭子さん(丸善博多店)をお迎えします。

 午後7時からは、北村さん企画の「完璧な本」です。ゲストは、辻山良雄さん(Title)、堀部篤史さん(誠光社)、黒田義隆さん(ON READING)をお迎えします。

 是非、梅田 蔦屋書店にお越しください。店頭でお待ちしてります。

10月14日(月・祝日)午後1時から開催
【読書の学校】ブックトークフェスティバル2019 

絶賛受付中です。お申込みは、下記から。
https://store.tsite.jp/umeda/event/humanities/10042-1658191001.html 

2020年1月31日、2月1日の二子玉川 本屋博
https://store.tsite.jp/futakotamagawa/bookshop-expo/

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