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【読書の学校】ブックトークフェスティバル2019

「田口幹人のはじめての一冊」福嶋聡×徳永圭子×田口幹人 司会進行・三砂慶明

大変お待たせいたしました。2019年10月14日、梅田 蔦屋書店で行われた「ブックトークフェスティバル2019」の模様をお送りいたします。各回2時間の3部制、これを1日でやりきった大型イベントです。まずは「はじめての1冊」からスタートしております。

いよいよ本題に入ります。まずは田口さんの「はじめての1冊」、どうぞお楽しみください!

前回はこちらから。

三砂:今日の本題「はじめての一冊」について伺わせていただきます。今回のこの企画に合わせて、事前に、それぞれ5冊ずつ本を選んでいただきました。恐れ入りますが、田口さんからご紹介をお願いしてもよろしいでしょうか。

田口:はい。今回、非常に難しいテーマだったなと思ってるんです。何をテーマ、自分の中で選ぶ基準にしようかなと思って選んできたんですけど。その時に僕が街の本屋だったさわや書店、そして実家の書店で仕事をしていた時に、書店ってなんだろうということを考えるきっかけになった本を今日持ってきました。そこでどういう活動をしたのかというところも含めてちょっとお話をさせていただければと思います。

まず一冊目がこちらです。れんが書房新社というところから出ております、及川和男さんという方が書きました『村長ありき』(及川和男 著)という本です。


田口:岩手県の沢内村という村がありまして、深沢晟雄(ふかさわまさお)というかつていた村長の生涯をまとめた本です。この岩手県沢内村というのが実は、私の実家の村です。全国で初めて乳児死亡率ゼロを達成した村なんです。なぜその時にそうしなきゃいけなかったのかを、彼はこの本を通じて語っています。われわれは子どもの頃から習います。学校でも習うし地域でも習います。でも、それを多くの方により知っていただくにはどうすればいいのか。

実はこの本はれんが書房新社から出る前にあけび書房から出て、その後に日経ビジネス人文庫に移り、『あきらめを希望に変えた男』というタイトルになりました。この本を通じて、地域が今までやってきた歴史を知りたくて来てくれる方が生まれたことを肌身で感じました。深沢晟雄がつくった町、村がどういうものなのか、皆さんが知りたい。本がその接点になったんですね。ああ、書籍というものは、非常に可能性があるものなんだな、と感じた最初の本です。地域と本ということを考える中では一番大事にしています。




田口:その後、さわや書店に入社しました。さわや書店に入った時に出会ったのがこの本です。『動物哀歌』(自費出版、村上昭夫 著 編集部注:思潮社『村上昭夫詩集』に収録、版元在庫僅少、書影は『村上昭夫詩集』)といいます。


村上昭夫さんという岩手県大東町出身の詩人がいるんです。今、岩手県で詩人って誰ですかというと、ほとんどの方がたぶん石川啄木、そして宮沢賢治を思い浮かべると思うんですけども、僕は岩手県を代表する詩人を誰か1人挙げてくださいと言われたら、迷わず村上昭夫を挙げます。

彼は戦後満州から引き揚げてきて、岩手の地でもう一度生きていく中で、苦しみを動物にのせて詩を編みました。彼は早くして結核で亡くなるんです。だから、ほとんど作品がないんです。

僕の師匠が1人いまして、伊藤清彦といいます。今、岩手県の一関市で図書館の副館長をやってます。その彼と初めて2人で飲んだ時に、彼が朗読したんですよ。「象」という詩でした。

「象は落日のようにたおれたという」から始まるんですけども、その時に「落日とありふれた陽が沈むことの天と地ほどの隔たりを」という一文があるんです。「田口君、ここなんだよ」と。落日と、ありきたりの陽が沈むことっていうのは、実はわれわれは同じように考えるよねと。でも、その違いを感じることができるもの、それが詩であり本なんだという話を彼がしてくれました。このことは、本を読むことでしか感じることができないんだと、彼は教えてくれたんです。

でも、『動物哀歌』という作品はなかったんです。で、僕らはなんとかして『動物哀歌』を世に出したいと思って、弟さんがご存命でして、弟さんのところに行って自費出版しましょうと、全部われわれが買い取りますということで、全部買い取ってさわや書店だけで販売をさせていただきました。それは全部売れました。

僕が今年さわや書店を退社することになったんですけど、その時にラジオの番組とテレビの番組もやってましたので、「最後に一番思い入れのある一冊を紹介してもらえませんか」というので、その時に僕は『動物哀歌』を紹介しようと思ってたんですけど、在庫がなかったんです。でも、その時『動物哀歌』の復刊をやる時につくった委員会が解散するというので、「僕もちょうど盛岡から離れることになったんです」とあいさつをしたら、「実は倉庫に200冊だけ見つかったんです。今までお世話になりましたので、すべてさわやさんにお渡しします」と。在庫がそろいました。「よし、これでやりましょう」ということでラジオとテレビでやったら、午前中でほぼ売り切れました。

僕は地方の書店が本を通じた地域のハブになれたらいいなと思っていて、そのためにやれることを一生懸命やってました。岩手には他にも、東山堂さん、TSUTAYAさん、ジュンク堂さん、いろんな書店さんがあるんですけど、そこにもきっと本は入ってるという状況の中で盛岡全体が盛り上がればいいんだと思っていました。ラジオも12年、テレビも8年ほど、今でもレギュラーでやってます。情報の発信基地がさわや書店のフェザン店であればいいという思いでずっと仕事をしてたんです。

最後だけはちょっと皆さんにご迷惑を掛けて、さわや書店で売上取らせてもらうねっていうことで、そうしたんですけど。その一冊の本を通じた地域の方々とのコミュニケーションというものが、これから非常に大事なんだなと。それを実感したのがこの本でした。




田口:で、もう一冊がこちらです。五十嵐貴久さんという方の『安政五年の大脱走』(幻冬舎)という、こちらは時代小説です。


僕は今、ほぼ時代小説専門で本を読んでいるんですけど、この本は抜群に面白い。ただ当時、これを仕掛けたのが2012年ぐらいですか、もうちょっと後かな。地方の書店は注文しても、なかなか書籍が入荷しないんです。注文してない本はたくさん入ってくるんですよ。その時にそこで諦めたら終わりなんですよ。そういうもんだと思ってたら終わりなんです。僕は違うんです、戦い方が。

この本は重版がかかってない本だったんです。あの時、発行から数年経っててまだ重版かかってない。要するに出版社でいうとこのEランク。Eランクというのは、梅田蔦屋書店ぐらいの規模の書店には入るんですけど、200坪ぐらいの書店にはなかなか入ってこない本なんです。その状況の中で、秘密結社が立ち上がるわけですよ。「ちょっとどう思う」と、書店のみんなにツイッターでやったんです。「一緒にこの本売らないか」と、秘密にして売り始めるわけです。みんな読み始めたら「面白い」と、「これはやろう」ということでやり始めたんです。それぞれの知り合いだけ、まず知り合いだけの書店二十数軒で始めて。さわや書店のお客さんは、そういう面白い企画に乗ってくれる人たちなので、もう飛ぶように売れるわけです。

僕らとお客さんは信頼関係があるんで、「これ絶対面白いから」って言ったら間違いなく売れるんです。そういう書店員の皆さんとのネットワークが広がって、一緒になって共有しながら今仕事ができるようになった。で、長江貴士が仕掛けたさわや書店のフェザン店から始まった「文庫X」という企画があったんですけど、あれを一生懸命一緒になって支えてくださったのが、実はこのメンバーの方々なんです。だから、これはそういう意味で非常に大事な一冊です。




田口:次がこちらです。『吾が住み処(わがすみじょ)ここより外(ほか)になし』(萌文社、岩見ヒサ)という本があります。


『吾が住み処ここより外になし』、岩見ヒサさんという岩手県の沿岸部、田野畑村にいた開拓保健婦さんが書いた本です。僕はすごく大切にしています。岩見さんは実は大阪の方で、大阪から岩手に嫁がれて開拓保健婦として働き始めたのが昭和の初めの頃。彼女が学びに行ったのが沢内村という私の実家のあるところで、みんなで地域医療っていうものをやっている。ほぼその話です。

2010年に出た本で、献本をいただいて読んだんです。もちろん全部読みましたが、その中の6ページにすごく衝撃を受けたんです。そこが「反原発奮戦記」という章です。それを読んだ時、僕は、小中学校、高校とずっと岩手県なんですけど、一度も教えてもらっていないことがあって、それは岩手県の沿岸部に原子力発電所を誘致しようという話が県議会の議決までいったという事実なんです。聞かされてなかったんです。そのときは「なるほどな」「こういうことがあったんだな」と思いました。

これを思い出したのが2011年3月11日です。あの津波があって、そして福島であのような大きな事故があった。あの時に一番最初に思い出したのがこの本だったんです。結局、書店ってなんだろう、書店と地域の関わりってなんだろうということを考えるにあたって、この本がものすごく僕にとっては重要なんです。書店っていうのは、要するに今までの誰かの経験値を自分の経験値にすることができる場所なんじゃないか。それがたぶん本を読むことの意味の一つなんだと僕は思ってます。

この本は実は初版がものすごく少ないです。まあほとんど売れる店がなかったんです。ただあの2011年3月11日以降これを仕入れました。あの時、原発の賛否というものがものすごく盛り上がってる時、原発の本をほとんど置かなかったんです。全部返品しました。で、この本だけ置いて「まずは何があったのかを知ることから始めましょう」と売り場に書きました。

3月11日に僕が思い浮かべた一文が一つあって、先ほどお話したんですけども、この最後の6ページの「反原発奮戦記」っていうところにこう書かれてます。2010年に書かれた本ですよ。「あの時、お金で自分の土地や海を手渡した人たちは今、幸せに暮らしてますか」で終わるんです。「あの時、お金で自分の土地や海を手渡した人たちは今、幸せに暮らしてますか」。あの文が浮かんで、後で一度一回行ってみようと思って原発予定地に行きました。そこの予定地だった場所に。全部流されてました。もし、あそこに原発があったら岩手県盛岡市に僕らはたぶん住めなかったでしょう。それがいい悪いって言ってるわけじゃないんですよ。そういうことがあった、そこから賛否を考えればいい。僕はそういうふうな、昔の誰かが蓄積したなにかを自分のものにできる場所が、本屋なんだろうなと思います。




田口:僕、自分の人生の中で100点の本って1冊あるんですよ。武田泰淳さんの『富士』(中央公論新社)という作品です。あれが僕の中では人生を変えた作品なんですけども。1年でいまだに何回か読みます。あの本を人に薦めようとは思いません。たぶん人生狂うんで、誰かの。まず、読まないでいいと思います。僕は自分だけのものでいいかなと思うんですけど。

ただ、その後にエンタメ系の中でとにかく一冊、「心から面白かったねっていう本ない?」って言われたら、僕はこの『火怨』(講談社、高橋克彦 著)をお薦めしたいと思います。


『火怨』。坂上田村麻呂と蝦夷(えぞ)にいたアテルイという原住民の戦いを描いています。原住民と中央の戦いです。史料として残ってるのはほとんど朝廷側の田村麻呂の目線で書かれています。蝦夷地というものがあって、そこに住むアテルイという者が、要するに日本人、和の国の人間じゃないとして扱われているわけです。そこの中でアテルイの側から見た、要するに負けた側から見た歴史というものがあるんだということと、日本が単一民族じゃなかったんだということがよく分かる本なんです。岩手を代表する、岩手といえば高橋克彦というような、彼の渾身(こんしん)の一冊。あまり歴史・時代小説に興味がない人に、ぜひ読んでいただきたいなと思っていて。

大阪もかつては中央の場所だった。でも今、中央が東京に行って、大阪が地方になっている。地方には地方の思いがあって、それはいつの時代もあるんだろうと思うんです。やっぱり地方だから分かることがあって、岩手県ではこれも売れた。一生懸命やっててずっと売れてたんで。でも、また売れ始めたのが震災後なんです。「東北スタンダード」っていう言葉で。なにかその町で生きる意味っていうのを探そうよっていうときに、そういうポップを書いたらものすごく売れました。これが一つのきっかけとして、僕はこの本を手渡したいなと思っています。

三砂:田口さんのお話を伺ってると、本を売る旬がどこかを探されているような。

田口:それは意図的にそうしています。

三砂:本を輝かせる言葉をその本の中からくみ取っておきながら、でもそれを読んだタイミングで紹介するんじゃなくて時期を待つ?

田口:そうです。やっぱり本は、あくまで著者と出版社の都合で発売日が決まっているので、今の出版状況からすると店頭に置かれるのって1カ月ないわけです。3カ月に1回しか本屋に行かない人たちは、その間に出た本に出会うことすらないわけです。その本の旬っていつだろうっていうときに発売日は一つの旬なんだけど、一番その本が必要とされてる時に必要とされてる言葉を添えた時に、それが僕は旬なのかなと思っていて、特にフェザン店はとにかくそれだけをやってました。今これがなぜ読まれなきゃいけないのか、今なんでこれを売らなきゃいけないのかっていう理由を添えた時に本って必然的に売れていくんです。そこだけはこだわってました。だから、それを探すために本を読んでいるんだと思います。

第3回へ続きます。

福嶋聡(ジュンク堂書店)
1959年、兵庫県生。1981年、京都大学文学部哲学科卒。1982年2月、(株)ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)6年、京都店10年の勤務ののち、1997年11月仙台店店長。2000年3月より池袋本店副店長。2007年3月より大阪本店店長。現在、2009年7月にオープンした難波店店長。1975年から1987年まで、劇団神戸にて俳優、演出家として活動。1988年から2000年まで、神戸市高等学校演劇研究会秋期コンクールの講師を勤める。日本出版学会会員。著書に「書店人のしごと」(1991年 三一書房)「書店人のこころ」(1997年 三一書房)「劇場としての書店」(2002年 新評論)「希望の書店論」(2007年人文書院)「紙の本は、滅びない」(2014年 ポプラ社)「書店と民主主義」(2016年人文書院)「書物の時間」(2017年けやき出版)、「フェイクと憎悪」(共著 2018年)大月書店など多数。

徳永圭子(丸善博多店)
1974年生まれ。書店員。現在丸善博多店勤務。本屋大賞、地域イベントのブックオカなどの本のイベントに実行委員として携わる。

田口幹人(リーディングスタイル)
1973年、岩手県生まれ。盛岡の第一書店に就職後、5年半の勤務を経て、実家のまりや書店を継ぐ。店を閉じ、2005年にさわや書店に再就職。独自の店づくりと情報発信によって、さわや書店フェザン店から全国的なヒット作を多く送り出す。2019年さわや書店を退社。現在は㈱大阪屋栗田(現楽天ブックスネットワーク)に勤務。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに、中学校や自治体と連携した読書教育や、本に関するイベントの企画、図書館と書店の協働などを積極的に行う。著書に『まちの本屋 血を継ぎ、知を編み、血を耕す』、編著書に『もういちど、本屋へようこそ』がある。

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