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【読書の学校】ブックトークフェスティバル2019

「読書とはなにか」福嶋聡×徳永圭子×田口幹人 司会進行・三砂慶明

2019年10月14日、梅田 蔦屋書店で行われた「ブックトークフェスティバル2019」の模様をお送りいたします。各回2時間の3部制、これを1日でやりきった大型イベントです。当日の順番とは異なりますが、まずは「はじめての1冊」からスタートしております。

今回は「読書について」、どうぞお楽しみください!

前回はこちらから。

三砂:田口さんは、この『もういちど、本屋へようこそ』(PHP研究所、田口幹人 編著)の中でも触れられていますが、中学校に講師としても行っておられます。学校でこの本(『AI vs教科書が読めない子どもたち』(東洋経済新報社、新井紀子 著)をご紹介されたりはするのでしょうか?

田口:学校の授業というよりも小中高の図書館や国語の先生方の集まりに呼んでいただくことが多いんです。子どもたちに本を読ませるにはどうしたらいいかという話です。この本を読んだ時、僕も衝撃でした。なにかすごいものを読んでしまったと。

結局、小学校で6年間、中学校で3年間、義務教育として国語の授業をやりますよね。国語の授業で何をしているのかというと、読解教育をしてるんです。その中では実は読書教育ってしてないんですよ。それはなぜかというと、読書には評価がつかないんです。要するに評価対象にならないものは、授業の単位として認められてないんです。だからやらないんです。

読解教育、読み解く力を付けるために9年間、国語の先生が教えたにもかかわらず、卒業していった子どもたちの6割が教科書を読み解けない。これどういうことって話なんですね。じゃあ読み解く力を学ぶための9年間に間違いがあったのではないか、というAIよりも恐ろしい本なわけです。先生方にその話をした瞬間にみんなしーんとするんです。衝撃で何も言えないわけですよ。僕は「あ、なるほど」と、本を読むことの意味ってもしかしたらそこにあるんだろうなっていうことをすごく感じてました。

この本で、先ほどの福嶋さんがお話したとおり、「本を読むってどういうこと?」ってことを、子どもたちも含めて考えるんですけど、私も2時間いただいて、「みんな、本を読むってどういうことなんだろう」という授業を、もう9年ぐらい、いろんな学校でやってます。その際「なぜ本を読まなくなるか」について、必ずアンケートを取ってます。たぶん皆さんスマホが原因だろうと思われるでしょうけど、実はスマホは5位なんです

三砂:5位?

田口:5位なんです。「学校の音読の時間で笑われた、だからもう読みたくない」が3位でした。で、2位が、読みたくない本を読まされ続けたということでした。「これ読みなさい」って。でも「読みなさい」って言う人も、実は読書離れ世代ですよ。今62歳までの人はもう全員読書離れ世代です。ここにいる人たちはほんとに貴重な存在なんです。ここにいる人たちはほんとに貴重な存在なんです。読書から離れたとこに暮らしてる人たちがたくさんいるという現実があるわけです。

第1位は「なぜ本を読むことがいいことなのか」を教えられてないということなんです。「なるほど」と。それで「教えられてなきゃ、やらないの?」って聞いたら、それは学校で教わらないものだから要らないものなんだと。

三砂:そうなるんですか。

田口:そうなるんです。点数にならないし。すごく合理的ですよね。

別に読まなくたって何も言われないし、そもそも教えてる先生方自身が本を読まないで育った世代だし。

本が何かということがそもそも分からない中でも、ふわっと「本っていいよね」って思うなにかがあるわけです。その感覚は、僕は絶対に教科書が紙だからあるんだと思うんです。当たり前のように、僕たちは小学校の1年生から紙の教科書を使う環境で育ってるわけです。だから、紙の本はいいものなんだと。もちろん嫌いな人は嫌いなんだけど。

そして、2020年度以降、電子が導入されるんです。文科省の法令で、授業時数の2分の1までなら電子の教科書を使用できるとようになったんです(平成30年 文部科学省告示第237号)。これはもうやるしかない。そうすると、小学校1年生の子どもがタブレットを持って学校に行く時代が来るわけです、まもなく。その時には遅いんですよ、もう。紙の本って何っていう話がいずれやってくるんです。

その時、出版業界に携わる者も、その紙の本を大事にしてくださるお客さまも、今まで僕らが明確に避けていた、「なぜ、紙じゃなきゃいけないんですか」という問いにまともに答える必要があるんです。僕は電子が悪いとは全然思ってません。ただ、電子書籍というものの良し悪しっていうのも分かってます。

日販の『出版物販売額の実態』によると、今、書店で本に出会う人は46%にまで下がっています。で、電子が約25%(インターネットと電子出版物を合計)。どう出会うかというときに電子でっていう人がそこまで増えてる。そして実は図書館が4%。書店、図書館で本と出会うことが少ない、これが非常に大きい。

徳永:電子で出会うっていうのは、ウェブサイトから。

田口:ウェブサイトやSNSを含めて、インターネット情報全体です。

徳永:薦められるってことですか。

田口:そういうことです。そこで買うか買わないかは別なんですけど。

だから、僕が今ちょっと書店の現場を離れてしたいのは、その「本を読むってどういうことなんだろう」ってことを、いま一度子どもたちと一緒に考えていく、ということなんです。実際に岩手県の盛岡市と2020年、21年と一緒にやっていく予定です。

三砂:福嶋さんはその問いに答えるような、『紙の本は、滅びない』(ポプラ社、福嶋聡 著)という本をポプラ社からお出しになっています。その中で福嶋さんは「本の価値はそれが学問であれ虚構であれ、読んで初めて読書という体験を通じてのみ現実化する。本への書き込みはその体験の痕跡である。その痕跡は読者にとって一種の外部記憶装置である。そう、書物とはその書物が誕生する以前に生まれたコンテンツの記憶装置であるとともに読書体験そのものの記憶装置でもあり得るのだ」と書かれています。

福嶋:はい。

三砂:デジタル化されたコンテンツとの違いを表現されていると思うんですけれども、今のお話を聞かれてどうでしょう。

福嶋:もともとこの本は、ポプラ社の当時の社長が電子教科書、デジタル教科書に関して非常に危惧を持ってて、意気投合して書いた本なんです。ポプラ社はご承知のとおり主軸が子どもさん向けの本ですから、紙の本が多いわけです。

書き込みのこともそうなんですが、ただ、今それ以上に気になっているのは、デジタルの電子書籍が、私自身ほとんど、というか全然買わないんでよく分かんないんですけども、所有物ではなくていわゆるアクセス権になっていることです。実際にアメリカでオーウェルの『動物農場』が突然消えたらしいですが、ある恣意(しい)によって本が読めなくなっちゃうことがあったり、あるいは電子書籍の買った先、つまりアクセス権のある先が倒産したりするといきなり読めなくなったりというような話も聞いたことがあります。

熱心にデジタルの本の可能性を追求してきた萩野正昭(はぎの まさあき)さんという方がいらっしゃるんですが、その方の本を読んでると、最終的に本は残ること、これが非常に大事な属性であるとおっしゃってます。それに対して、最近は紙の本もそうだし、ましてデジタルもそうですけども、その時に売れたらいい、むしろ売れて忘れられたほうがまた次のが売れるという理屈の下消費財となってしまっています。ただ本は最終的には残るという、このことが非常に大事なことだということを忘れちゃいけない。確かにわれわれが歴史を知ってるのは本が残ってるからですよね。本がないところの歴史は一切分からないです。そういう意味で僕は図書館を非常に強く応援してるんです。

本を作りかつ残していくという仕事も必要なんじゃないかな。その時にデジタルは、もともとは「いつまでも本は残りますよ」ってうたってたんだけども、実はそうでもなさそうだということが非常に気になっているところです。

三砂:会場から質問をいただいています、最後に一つ質問させてください。

「本が好きになったきっかけとして、子どもの頃に図書館や書店に連れていってもらったことが大きいと思っています。子どもと読書の関係において図書館や書店が果たすべき役割をどのようにお考えでしょうか?」お三方にです。

田口:はい。僕は実家が本屋なものですから、本に囲まれてるのが当たり前だと思いながら生きてきたんですけど、いろいろと調べると、どうやら当たり前ではないということがよく分かる。僕が今一番大きな仕事のテーマとしてるものが「本との出会いの場をどうつくるか」ということです。

今まで十数年、さわや書店で本をどれだけ売るかということを一生懸命やってました。で、今、そこからちょっと離れてみようと思っています。

先ほど福嶋さんが図書館の話をされました。僕は、図書館とまた違う、街のライブラリー的な、本が自由に読める環境をつくりたい。たぶん怒られるんだと思うんですけど、僕は、本を「福祉」と定義してみたくて、今デイサービスセンターと社会福祉法人と一緒に図書館と書店をつくろうと思ってます。これは利益を生んでいく企業型の書店ではなく、どちらかというと社会の中の仕組みとしての本屋です。

三砂:では、徳永さん。お願いいたします。

徳永:私も子どもの頃はよく本屋には行っていたんです。中高生の頃、本屋に行かない日っていうのはなかった気がするんです。学校の帰り道に本屋があって立ち読みをしていました。部活動にも入っていなかったので立ち読み部じゃないかっていうぐらい立ち読みをしていました。

三砂:そうなんですか。

徳永:そうなんです、本屋の前で。街の小さな本屋さんって、割と外にも本を置いていますよね。で、立ち読みしてたら、後ろでカッカ、バーッてクラクションが鳴るんですよ。なんだろうと思って振り返ったら、うちの親なんです。「いいかげんに帰ってこい」と言ってバーッて鳴らしてた。そんな感じだったので、やっぱり身近に本屋があるってことはとても大事なことで、ぜひ近くの本屋で本を買っていただきたいと思います。

ブックオカの核になってるところで、福岡市内に2店舗を擁するブックスキューブリックという本屋があります。そこの店主の大井さんが、実行委員長としてやっていただいてるんですけども、そうやって街をけん引してくれる方がいるってことがやっぱり大事かなと。

同時に図書館にもよく行ってはいました。自分ではあまり記憶してないです。図書館に行ってすごくたくさん本を借りて読んだわっていう記憶はないんですけど、子どもの頃の作文とかがぺろっと出てくると、図書館で借りた本のこととかを書いてるんですよね、一生懸命。だから行ってたんだなと。それがなんとなく当たり前に組み込まれていた。親に連れられて行ったわけでもなく、子どもの足で行ける場所にあった、そこがやっぱり大事かな。子どもの足で行ける場所にある本屋とか図書館をぜひ大事にしていただきたいし、自分も大事にしていきたいなっていうのは常々思います。 

三砂:ありがとうございます。では、最後に福嶋さん、お願いいたします。

福嶋:田口さんの活動を応援したいと思います。実際にそういう動きも実は私の近くで少しありまして。本屋あるいは図書館、あるいは今、田口さんがおっしゃったような街のライブラリー的なものがあるということですね。もう一つはわれわれ大人というか、そこを管理してる人間が子どもさんに対して、いわゆる常識、ある意味では価値観というものをもう少し広げて対応すべきかなと思います。やっぱりこれしちゃいけない、あれしちゃいけないということになるとなかなか敷居が高くなるので、だから、お店の中で危なくなければ走り回ってもらっても僕はいいと思ってますし、そういう意味では決まりがこれだけあるということではない空間であることがいいんじゃないかなという気がします。

これは極端な例なんですけども、実は僕がよく知ってる石橋毅史さんが、『本屋がアジアをつなぐ』(ころから、石橋毅史 著)という本で、内山書店という戦前に日本人が上海につくった書店のことを取材して書かれてるんです。内山書店の内山完造さんという方は、「万引きに対してさえ、本を盗もうとする人は金さえ入れば必ず本を買いたがるものです。今は盗まれたとしても金を貸したのと同じことですと寛容な姿勢を見せたという」。これはちょっと極端な話なんですけども。ただ、いろんな子どもさんらしい動きに対してやはり寛容というか、子どもさんたちに僕らが自分たちの持ってるある種の当たり前、常識を崩してくれるものだという気持ちを持つことが大事かなと思っています。

三砂:長時間にわたり、「はじめての一冊」をテーマに、福嶋聡さん、田口幹人さん、徳永圭子さんにお話いただきました。大きな拍手をお送りください。本日はありがとうございました。

第6回からのトークテーマは「あなたのための本」です。
toi books・磯上さんと楽天BN・長江さん、恵文社・鎌田さんにこれまでのお仕事とこれからのお仕事についてお話を伺い、後半は会場の皆様から募ったご要望に応じて、本を選んでご紹介いただきます。
次回もぜひご覧ください!

福嶋聡(ジュンク堂書店)
1959年、兵庫県生。1981年、京都大学文学部哲学科卒。1982年2月、(株)ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)6年、京都店10年の勤務ののち、1997年11月仙台店店長。2000年3月より池袋本店副店長。2007年3月より大阪本店店長。現在、2009年7月にオープンした難波店店長。1975年から1987年まで、劇団神戸にて俳優、演出家として活動。1988年から2000年まで、神戸市高等学校演劇研究会秋期コンクールの講師を勤める。日本出版学会会員。著書に「書店人のしごと」(1991年 三一書房)「書店人のこころ」(1997年 三一書房)「劇場としての書店」(2002年 新評論)「希望の書店論」(2007年人文書院)「紙の本は、滅びない」(2014年 ポプラ社)「書店と民主主義」(2016年人文書院)「書物の時間」(2017年けやき出版)、「フェイクと憎悪」(共著 2018年)大月書店など多数。

徳永圭子(丸善博多店)
1974年生まれ。書店員。現在丸善博多店勤務。本屋大賞、地域イベントのブックオカなどの本のイベントに実行委員として携わる。

田口幹人(リーディングスタイル)
1973年、岩手県生まれ。盛岡の第一書店に就職後、5年半の勤務を経て、実家のまりや書店を継ぐ。店を閉じ、2005年にさわや書店に再就職。独自の店づくりと情報発信によって、さわや書店フェザン店から全国的なヒット作を多く送り出す。2019年さわや書店を退社。現在は㈱大阪屋栗田(現楽天ブックスネットワーク)に勤務。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに、中学校や自治体と連携した読書教育や、本に関するイベントの企画、図書館と書店の協働などを積極的に行う。著書に『まちの本屋 血を継ぎ、知を編み、血を耕す』、編著書に『もういちど、本屋へようこそ』がある。

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