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【読書の学校】ブックトークフェスティバル2019

「『本屋大賞』と『ブックオカ』」 福嶋聡×徳永圭子×田口幹人 司会進行・三砂慶明

大変お待たせいたしました。2019年10月14日、梅田 蔦屋書店で行われた「ブックトークフェスティバル2019」の模様をお送りいたします。各回2時間の3部制、これを1日でやりきった大型イベントです。まずは「はじめての1冊」からスタートいたします。

どうぞお楽しみください!

三砂:大阪の梅田 蔦屋書店で「読書の学校」を主宰している三砂慶明と申します。

「読書の学校」は、これからの読書の魅力を発信するための小さな選書フェアで、当店が16の出版社とともに行っているものです。フェアの一環として、定期的に全国の書店から名物書店員をお招きして、読書の魅力、本の魅力を語っていただく連続企画「読書の学校」ブックトークフェスティバルを開催しています。

今回は三部制で、わたし三砂が「はじめての一冊」、実行委員の北村知之(梅田 蔦屋書店)が「完璧な本」、北田博充(二子玉川 蔦屋家電)が「あなたのための本」をテーマに、それぞれゲストをお招きしてお話を伺います。

それではトークテーマ「はじめての一冊」をお話いただくゲストを紹介いたします。ジュンク堂書店 難波店の福嶋聡さん、丸善 博多店の徳永圭子さん、大阪屋栗田(現楽天ブックスネットワーク)の田口幹人さんの3名です。本日はよろしくお願いいたします。

福嶋:はい。

徳永:よろしくお願いいたします。

田口:田口です。よろしくお願いいたします。

三砂: このブックフェスを企画する前に、実行委員の2人と前夜祭と称して、書店員の皆様が書かれた本を遡りながら読みました。特に、本日ご登壇いただいた皆様のご著書を拝読していると共通して、読書とはなにか、本とはなにか、本屋とはなにか、読者のためにできることはなんなのか、ということを根本的なところから問い直しているんじゃないかと感じました。今回のテーマ「はじめての一冊」は、本と書店と出会いなおしてもらうための特別の一冊にしたいと考え、企画しました。

さて、「はじめての一冊」を伺う前に、書店員の先輩である、皆様にいくつかお聞きしたいことがあります。


三砂
:徳永さんに伺うのは、書店イベントの金字塔、本屋大賞ブックオカについてです。全国の書店員が、投票して一緒に本を売る本屋大賞と、地域と街をつなぐ福岡の名物イベント「ブックオカ」にも立上げから関わっておられます。まず、これらのイベントがどういうものなのか、教えていただけないでしょうか?

徳永:本屋大賞のほうは15~16回かな、回数をちゃんと覚えてないんですけど、それぐらい続いていて、ブックオカも2006年から続けているイベントです。本屋大賞はご存じの方もいらっしゃるかと思います。全国の書店員が選ぶということで、皆さんのお手元にもチラシなどを置かせていただいていますが、社員でなくても学生のアルバイトのスタッフの方でも投票ができるよということでスタートしたイベントです。毎年大変話題になって非常に売上も出ているのではないかなと思っています。本の雑誌社さんが本屋大賞の別冊を作ってくださっていて、これを読んでいただくと、1人1人がどんなものに投票したか、1位以外のものとか、あと発掘本としていろんなものを紹介してることがわかります。

福岡は実は出版社がたくさんあるんですよ。ブックオカはその出版社の方々と福岡の書店員が一緒に福岡を少しでも本の街にしようということで続けているイベントです。

三砂:田口さんと福嶋さんは、本屋大賞とブックオカとどう関わっておられましたか?

田口:じゃあ、僕から。本屋大賞ですね?

三砂:はい。

田口:本屋大賞は、僕は2回目か、3回目からたぶん投票していると思うんですけども、なんだろう、いろんなことがありますよね、思ったものがならなかったり。

徳永:そうですね。

田口:でも、基本的には書店員の投票で決まるものなので、書店員の民意ですよ。みんながそうやって一冊の本を応援しながら、自分の一冊がより多くの人に届くきっかけとして本屋大賞というはあると僕は思っています。なので、改めて本屋大賞がどうということもなく、いち投票者として、いつも楽しませてもらっています。

また僕たちが、一冊の本をどう届けるかというときに、どうしてもそれぞれの店のある、自分たちが所属する場所、エリアでしか発信することができないんですけど、本屋大賞を通じて多くの方が一緒になって届けることができている。

本屋大賞の準備で、みんなで集まるのが、たしか4月の頭ですもんね。

徳永:そうです。4月。


田口
:いつも同窓会みたいですよね。毎回毎回「まだ書店員やってたのね」とか。「良かった、良かった」って言って、毎回その会場で集まって。

徳永:はい。

田口:「また会えたね」っていう、あの場を与えられているだけでも、僕らはすごく勇気をもらってます。

ブックオカについては、地域と本、そして本に関わる人間たちが、非常にマッチしてうまく回ってて、バランスがすごくいい会なんだなって思って参加させていただきました。ブックオカは、去年はじめて伺ったんですけど、「全然、本に関係ないんです」という人がすごく多いじゃないですか。本のイベントは出版関係者が中心になることが多いんですけど、ブックオカは本屋以外の人たちの本への熱を感じることができるイベントだと思ってます。

徳永:そうです。実はそっちの方のほうが熱心だったりします。

田口:ですよね。そこをどうつないで発信するのかを、本の業界の人たちが手伝ってるというイメージがすごく強い。2日ほど会場を回らせてもらったんですけど、そこをすごく感じることができたイベントでした。

三砂:福嶋さんはどうですか?

福嶋:生来のあまのじゃくなものですから、人がいいと思った本にはもう興味がなくなっていて、本屋大賞に関してはあんまり最初からコミットしなかった。別にいいとか悪いとかじゃなくて。

徳永:いいですよ、いいですよ。

福嶋:あまり興味がなかったんです。ただ、日本ペンクラブ会長の浅田次郎さんとご一緒したイベントで、本屋大賞っていうのはこういうことでできたんですよというのを言いかけた時に、浅田さんに「いや、芥川賞だって直木賞だって審査員は一生懸命頑張ってるんだ」というふうに、ひどく怒られてしまいまして。僕が言おうとしたのは、審査の仕方うんぬんじゃなくて、かつて唯一の権威といってもよかった芥川賞、直木賞、特に芥川賞が新人賞というスタンスですから、受賞時には単行本がないことが多い。結局、その単行本ができた頃には少し熱が冷めてる、ということ。本屋としてはその決まった瞬間に売る物が欲しいという気持ちもあったのかなと、僕は最初思ってました。そうしたせっかくの機会に、本を売りたいと思い、その時に全国に十分な在庫のある本を選びたいなという気持ちも少しはあったんじゃないかなと勝手に思っていて、浅田さんにもそのように言おうとしたのです。

徳永:おっしゃるとおりというか、いいところを言っていただいて。本屋大賞っていうのは本屋が選んで本屋で売る賞なので、発表されたその晩に本屋にその本の在庫がドーンとある、積んであるというところがポイントなので、それが理由で非常に大きくなっていった賞なんだと思います。

福嶋:福岡には、自分の会社の店があるんで、何回か行ったんですけど、ブックオカの時期に行く機会がなかったんで、あまり田口さんのように明確な感想がないんです。ただ、最近京都で、出版文化振興財団(JPIC)なんかが関わって、本屋さんがいろんなイベントをし始めている。例えば、今、10回以上進んでる、丸善の京都本店でやっている「フランス文学読書会」。そういう会をやるにあたって、たくさんの本屋さん、そして出版社の方々も関わってらっしゃるんですが、その時に一番注目したというか、範例にしたのがブックオカだったというふうに聞いております。「神保町ブックフェスティバル」なんかもありますけど、そういったところだけじゃなくていろんな地域で出てきてほしい、おそらく田口さんがいらっしゃった盛岡なんかでもいろんな試みがあると思います。どうしてもメーカーが東京に集中していて、出版の中心は東京というイメージがあるんですが、でも読まれる方は全国にいらっしゃる。そういう意味では全国でこういう試みがどんどん増えていったらいいなと思っております。

三砂:ありがとうございました。

せっかくの機会ですので登壇者のご著書について、それぞれ現場で働かれてきた皆さまからの感想を聞かせてください。

時間軸で書店員の本を調べていくと、チェーン系の書店が成熟し、職業書店員の誕生とともに、書店員の本が産まれていくのがわかりました。その筆頭が、今回のゲストの一人、ジュンク堂書店の福嶋聡さんです。チェーン系列の書店員の本が1990年代に花ひらき、そのカウンターなのか、生き方として書店を選んだ人や、独立系書店員の本も並走して産まれてきました。

田口さんは福嶋さんの本をリアルタイムで読まれていたのでしょうか?

田口:はい。わりと後追いの部分もあるんですけども、追い付いてからはリアルタイムで拝読しています。僕は福嶋さんのいろんな本を読んだ時に、僕の考えはこうなのかと、整理をさせていただきました。とくに良かったのは、「仕事ってなんだろう」という部分、書店員としてではなくて、働くってなんだろう、仕事ってなんだろうということを書店論の中で書かれています。書店員が、本を読むということが果たして仕事なのかどうかということです。で、その整理をしなきゃいけない時期が僕にもありまして、その時に「なるほど」と思いました。

三砂:福嶋さんが、『希望の書店論』(人文書院)で書かれている「仕事」と「しごと」のくだりですね。私たち書店員の「仕事」とは、本を売ることであって、本を読むことではないですが、ただし、「仕事」と無関係でもない。本を読むことや文章を書くことを、「仕事」の延長線上に見定めて平仮名の「しごと」と表現し、「仕事」を労働とみるならば、「しごと」は余暇であり、この労働と余暇が融合している。「しごと」は「仕事」に反映されるし、「仕事」が「しごと」に新たな指針を与えてくれる。

田口:はい。僕はさわや書店という岩手県盛岡市にある書店に13年勤めておりました。そこでの、「仕事」と「しごと」の区別の仕方は、完全に福嶋さんのお話を基にして組み立てています。長江貴士(元さわや書店、現在楽天ブックスネットワーク)にも、さわや書店に入る時に真っ先にまずその話を僕はしてます。「仕事」と「しごと」をどういうふうに仕分けするのかと。

僕は基本的に本を読むことが仕事でした。「しごと」も仕事なんです。だから、もう四六時中、本を読んでると。とにかく休みの日だけは本を読まない暮らしがしたい。だから皆さんに今「本、好きですか」ときかれると、心から「もう無理です」と思っています。とにかく読めない、僕はもうこれ以上本を読めないというぐらい読んでます。だから、本以外の暮らしをしたいっていうのが定年したあとの夢ですね。


三砂
:福嶋さんは?

福嶋:そう言っていただいて大変光栄なんですけども、僕は田口さんのこの『まちの本屋』(ポプラ社)を読んで驚きました。確かに僕自身、7~8冊単著がありますから書店員としては著作が多いのは多いんですが、いろいろと思い悩みながら書き続けてきたことをこの文庫本一冊で全部表現されています。しかも、みんなが分かる言葉で書かれている。その上、田口さんは実践もされていると。僕自身はそうやって「仕事」と「しごと」というふうに書きながら、若い頃は毎晩飲み歩いていたのであんまり本を読まなかった部分もあって、もっともっと読めたかなと思うんですが。田口さんはなんと朝の4時に起きて、本を2冊読んでから出社するという、そういう方です。だから、僕がしなきゃいけないと言いながらできなかったことを、田口さんはしてるわけです。そのことがこのほんとに小さい文庫本一冊ですけども、この中身ほんとに詰まってます。ですから、僕の本を5冊、6冊読むよりもこっちを一冊読んだほうがよっぽど値打ちがあるということは言っておきたいと思います。

田口:ありがとうございます。

福嶋:僕自身がどうしても若い頃にアルベール・カミュだとかドストエフスキーとか、あるいはそこから無謀にもカント、ヘーゲルを読みましたので、かたい文章でしか書けてないんです。けれども、一つだけいいことがありました。それは大学入試の問題によく使ってもらってるんです。大学入試の問題に使われると、事前にはもちろん知らされないんですよ、当然それは秘密ですから。その後で旺文社とかいろんな学参版元から「問題集に載せますので5,000円ほどあげます」という電話が来ますので、非常にありがたいことなので、それは良かったかなと思っています。

徳永:知らされないんですね、試験の問題なので。

福嶋:情報は、後から来ますね。

田口:僕も実は中学校の受験問題に使われることが多いんですよ。中学校の受験問題で絶対解けないと思うんです。「『まちの本屋』はなんでしょうか」って。そんなの誰が解くんだよって思いながら、一応4,000円くれる(笑)

三砂:徳永さんが共著で参加されている『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社)について、お話を伺います。

福嶋:僕がしゃべっていいですか。

三砂:はい。

福嶋:この本はいい本で、ちょっと分厚いA5判の本なんです。これはわれわれ書店員が読んでもすごく勉強になるんですが、一般の方が読んでも「ああ、本屋ってこういうふうになってるのか」というのが生の言葉で語られてて、徳永さんだけじゃなくていろんな方の声がすごく面白いんです。徳永さんに関して言いますと、私が一番最初に付箋を貼ったところが実は……まずですね、「今日のことを店内で話したら、『徳ちゃん、その会話は旗色が悪いよ』と忠告してくれる人もいました」と。今日の会というのは、本に出てくる座談会のことですね。

徳永:はい。そうです。

福嶋:丸善ジュンク堂のような大きなチェーン店がこういう会に行くと、敵視されるというか、要するにチェーン店が出てくるからわれわれが苦しいんだというふうな話になるから、とても居づらいよねということ。実は前に大阪でそういう会があった時に、僕もある書店の方にそう言われたことがあって。いやいや、僕は昔演劇やってましたから、実は悪役のほうがずっと面白いんで、そのほうがいいんですよって言ってたんですけども。でも、読んでみたら全然そういうことがなくて、徳永さんも輪の中にすんなりと入ってる。その一つの理由として注目したのですが、徳永さんが客注の話をされてましたよね。

徳永:はい。

福嶋:お客さんの注文。つまり、われわれ大型店は、なんでもそろってますよ、ということが売りみたいに見えるんですけど、実はお客さんからの注文を聞きながら何が必要なのかとか、あるいはお話をする中でなぜそういう本が要るのかみたいなことを、聞けることがすごく僕らにとっての糧になってて。お客さんと直にお話をして、客注を取るということがいかに大事なことかを書かれてる。僕はほんとにそのとおりだと思ったんです。大型チェーン店も街の本屋であると思いますし、また大型チェーン店であっても、やはり普段使いの本屋さんにならないと残っていかないと思ってます。大型の店と小さい街の本屋さんはやり方は少し違ってくる。どちらがいいというわけじゃなくて、どちらも必要なんです。ただ、読者の方が普段使ってくださる本屋であるということについては共通してると思うので、徳永さんがまず客注のことをおっしゃったことは、すごく僕は印象に残っています。

徳永:ありがとうございます。

三砂:私自身、福嶋さんのお店に伺って、書店の勉強をさせていただいたときに、真っ先にこの本のことを教えていただきました。今日は直接、お話が伺えて勉強になりました。ありがとうございます。

 

第2回へ続きます。

福嶋聡(ジュンク堂書店)
1959年、兵庫県生。1981年、京都大学文学部哲学科卒。1982年2月、(株)ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)6年、京都店10年の勤務ののち、1997年11月仙台店店長。2000年3月より池袋本店副店長。2007年3月より大阪本店店長。現在、2009年7月にオープンした難波店店長。1975年から1987年まで、劇団神戸にて俳優、演出家として活動。1988年から2000年まで、神戸市高等学校演劇研究会秋期コンクールの講師を勤める。日本出版学会会員。著書に「書店人のしごと」(1991年 三一書房)「書店人のこころ」(1997年 三一書房)「劇場としての書店」(2002年 新評論)「希望の書店論」(2007年人文書院)「紙の本は、滅びない」(2014年 ポプラ社)「書店と民主主義」(2016年人文書院)「書物の時間」(2017年けやき出版)、「フェイクと憎悪」(共著 2018年)大月書店など多数。

徳永圭子(丸善博多店)
1974年生まれ。書店員。現在丸善博多店勤務。本屋大賞、地域イベントのブックオカなどの本のイベントに実行委員として携わる。

田口幹人(リーディングスタイル)
1973年、岩手県生まれ。盛岡の第一書店に就職後、5年半の勤務を経て、実家のまりや書店を継ぐ。店を閉じ、2005年にさわや書店に再就職。独自の店づくりと情報発信によって、さわや書店フェザン店から全国的なヒット作を多く送り出す。2019年さわや書店を退社。現在は㈱大阪屋栗田(現楽天ブックスネットワーク)に勤務。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに、中学校や自治体と連携した読書教育や、本に関するイベントの企画、図書館と書店の協働などを積極的に行う。著書に『まちの本屋 血を継ぎ、知を編み、血を耕す』、編著書に『もういちど、本屋へようこそ』がある。

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  1. 世界思想社

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