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【読書の学校】ブックトークフェスティバル2019

「徳永圭子のはじめての一冊」福嶋聡×徳永圭子×田口幹人 司会進行・三砂慶明

大変お待たせいたしました。2019年10月14日、梅田 蔦屋書店で行われた「ブックトークフェスティバル2019」の模様をお送りいたします。各回2時間の3部制、これを1日でやりきった大型イベントです。当日の順番とは異なりますが、まずは「はじめての1冊」からスタートしております。

今回は徳永さんの「はじめての1冊」、どうぞお楽しみください!

前回はこちらから。

三砂:徳永さんの「はじめての一冊」を教えてください。

徳永:はい。この本屋の仕事に就いたのが97年なんですけど、恥ずかしいことに、ほとんど本を読まないで本屋になってしまったんです。そんなふうに見えないでしょう。それはおかっぱ頭で眼鏡を掛けてるっていうところがポイントで、売り場でよくお客さんが「さっきの店員さん」って探してる時に、「どんな店員でした? 」って聞くと、「眼鏡を掛けててね、おかっぱ頭の人だったんだよ」って、レジにそんな人が5人ぐらいいるんですけど、「どれでしょう」。コスプレじゃないんですよ。でも、こんな感じの人が本を読んでそうで、本屋さんで働いてそうっていうビジュアルに皆さんだまされてはいけません。すごく仕事がない時代に学校を出まして、とにかく何でもいいから片っ端から何十社どころじゃないぐらい受けて、ほんとにどこにも決まらなくて、唯一採用されたのが丸善っていう会社だったんです。ありがたいことに。

それで書店の方が書いた本とか、本に関しての本とか読み始めると、「いや、これはまずいことになった」と思ったわけです。読まなきゃなと思うんですけど、そこでもう一つ問題があって読んでも読んでも分からないんですね、本を読んでも。理解できなかったり、その文章が自分の中で物語として形にならない。像を成さないことということがたくさんあって、それが今でもあって、児童文学とかも……この本の中にちょっと書いたんですけど、家に本棚がなかったんですよ。ありましたけど、このぐらいのカラーボックス。だから、そんなに本を読んで生きてきたわけではなく本屋になって、先ほど客注がって話もあったんですけど、やっぱり一人一人のお客さんから求められるものを聞いて探して仕入れて売って、こういう人が買っていったんだ、もしかしたら面白いかもしれないと思って自分が追っ掛けて読んでの数十年後が今って感じなんです。

で、その中でその「はじめての一冊」をということだったのですけど、まず1冊目は小川洋子さんの『博士の愛した数式』(新潮社)


これは本屋大賞の第1回の受賞作です。私でも読んで理解ができて、とても面白くって物語の世界がふわっと広がっていくのが分かった作品でもあるし、ほんとにいい作品だなって思ったんです。賞が続いていく中で、最初にブックオカも本屋大賞も始める時っていうのは若かったんです。みんな30前後ぐらいで、仕事を始めて何年かたってちょっと飽きるとまでいかないけど、なにかしたいねって言い出したころに始めたものです。だんだん高齢化が進んでます。ぜひお若い方にもご参加いただきたいです。

続けていくモチベーションっていうか、続けていけるのはなぜかっていうと、一つはもっと受賞してほしい人とか、もっとこの人のを読んでほしいっていう思いがある。つまりちょっと悔いが残るというか、別に受賞した人が駄目だっていうわけじゃないですよ。だけども、ほんとはもっとこんな人のも、こんな人のもって思って、なんとなく続けていって十数年がたっていった。

もう一つのモチベーションは、中高生が結構手に取ってくれてる。『そして、バトンは渡された』(文藝春秋、瀬尾まいこ 著)もそうなんですけど、中学生、高校生の感想をたくさんもらう。小さい時に比べて本を読む機会が減ったり、時間がなくて読まなくなっていく若い人たちに、「読みました、面白かったです」って言ってもらえるのはうれしいと思いながら続けてるっていうのがあります。だから第1回の『博士の愛した数式』をまず選びました。




徳永:あとはジャンルでちょっと分けたんです。ノンフィクションから一冊選ぼうと思いまして、澤地久枝さんの『14歳<フォーティーン>』(集英社)という本です。


ノンフィクションっていうのも幅が広いわけなんですけども、やっぱり昭和とか戦後のことを書いたものを、また今読んでほしいな、読みたいなって思うのが一つと。うちの母方の祖母が3年ぐらい前に亡くなったんですけど、夫と子どもを連れて旧満州から引き揚げてきたんです。子どもの頃、不思議だったのは、ほんと何年かに一回しか会わない祖母が、その引き揚げてきた時の体験を昨日のことのように毎回毎回語ると。飽きもせず言うなと思っていたわけですが。

でも、自分がだんだん大人になって、震災であったりとか、災害に遭ったりっていうようなことがあると、自分が子どもの頃ないし大人になって体験した大きな出来事っていうのは、昨日のことのように感じられますよね、どの体験も。何年かたちましたけど、どの震災も昨日のことのように語るし、子どもたちに残したいっていうのがあって。そういうことを乾いた形で、そして軍国主義少女だったという反省も込めて書かれているんですよね。そういうことも踏まえつつ、とても温かい文章だなっていうふうに思って、この本、ノンフィクションの中から1冊選びました。




徳永:次は文芸評論から一冊。評論ってなかなか取っ付きづらいって思うわけなんですけど、三宮麻由子さんが書いた『世界でただ一つの読書』(集英社)、これとっても読みやすかったです。


で、取り上げられてる本も『坊っちゃん』とか、あと、吉本ばななの『TUGUMI(つぐみ)』とか、音のある、与謝蕪村の俳句とか、『博士の愛した数式』なども出てきます。三宮麻由子さんは目が見えないんです。「シーンレス」ってご本人はおっしゃってるんですけども、たくさんの読書をして、その本の中にある音を感じたりとか、とにかく使える感覚をフルに使って本を読むとどういうことが起きるかってことを書いていらして、それが文芸評論になっています。まだ三宮さんの本を読んだことがない人は、ぜひ一度読んでみていただきたいなと思います。




徳永:海外文学からも一つということで、わりと新しいもの、『ある一生』(新潮社)、ローベルト・ゼーターラーという著者のものです。


あんまりいいこと起きないんですよね。山の中で暮らして20世紀を生きた名もなき男の話で、災害に遭って妻を亡くしたりとかしながらも黙々と生きるんです。その自然の中に自分の生き方や生きがいを見つけたりってことと、自分の人生を最後に全て肯定するっていう気持ちが描かれていてとてもいいなって。

あとクレスト・ブックスという新潮社がつくったこのシリーズで、たくさんの本に出会えたなっていつも思っているので、クレスト・ブックスの棚、ぜひ見てみていただきたいんです。これもとてもお薦めです。




徳永:で、もう一冊がこれか。子どもの頃、本を読んでこなかった。なんで読んでこなかったのかなと思うんですけど、大した理由もないんです。ただ読まなかったっていうのもあるし、やっぱり難しいなと思ってた。そんな中で辛うじてちょっと読んでたかなと思うのが、詩集なんです。

三砂:ええー。

徳永:「えー」という感じですよね。詩の本を読むことは……私、もしかしたら高校生ぐらいの頃、疲れていたのかもしれません。疲れちゃって本なんて読む元気ないわって思っていたのかも。若かったのに。そんな中で詩集というのは辛うじて疲れなかったなっていうのがあるんですよ。私の同世代の今の友人たちもなかなか本を読むのはしんどいと。おうちのこともあるし、仕事のこともあるし、なかなかしんどいわっていう時にこの『通勤電車でよむ詩集』(NHK出版)っていう、小池昌代さんがいろんな方の詩を集めて名作詩集を編んでるものを勧めています。


最初に序文として「はしがきにかえて」っていうので、「次の駅まで」という文章を書いているんです。この文章を読めるだけでもこの一冊買った価値があったって思うぐらい、本を読むこととは、詩を読むこととは、そして働くこととは、暮らすこととは何かっていうのが、パッてこの数ページに詰まっていて、とても「ああ、なんか満たされた気持ちになった」と思ったので、この本にしました。

なかなか本を読むことがしんどいなと思う人にも薦められるかなって思う5冊を選んで。ついでにもう一冊。ここに置いてもらった本なんですが、『本屋がなくなったら、困るじゃないか』(西日本新聞社、ブックオカ 編は、ブックオカを10年やって、もう10年で辞めようと、終わらせようと思って、みんなで集まって梁山泊みたいに2日間缶詰めになって、みんなで十何時間語り合ったっていうやつですね、間に酒も飲むっていう。というかブックオカ、酒ばっかり飲んでるんです。とにかく飲むんですよ。

その酒飲み書店員の中の筆頭格として高倉美恵さんっていう人がいて、書肆侃侃房から『書店員タカクラの、本と本屋の日々。…ときどき育児』(書肆侃侃房)っていういろいろなところで書いた漫画とエッセーをまとめて、よくもこんなにちっちゃい字でまとめたなってぐらい凝縮した一冊が出ていて。この本ではちっちゃい赤ん坊として出てくる男の子も女の子ももう高校生、大学生になって羽ばたいているんですけれども。彼女の書いたエッセーは抜群に面白くて、この人もよく飲む人で。旦那さんが脳出血で倒れられて、介護をしながら、今も漫画もエッセーも書き続けている方で、ものすごく面白いです。

この人も書店員なんですが、子育てをしながらどうやって本を読もうかと。そしたら、子どもをまず寝せなきゃ読書時間が来ないということで、昼間必死で遊ばせるんですよ。遊べ、遊べと、疲れろと、そして「よし寝た」と思ったら、本を読むとかですね、そういう非常に体験に基づいていて、かつ非常にパンクな人なので、面白い本をがんがん中で薦めてくれてるんで、この本もとってもお薦めです。よかったらぜひ見てください。

三砂:たぶん今日、配っていただいたこのリーフレットの中にも。

徳永『読婦の友』(羊忘社、ブックオカ婦人部 編)っていう、ブックオカで婦人部っていうのがありまして、農協みたいな感じですけど。男の人たちが飲んでばっかりいるわけですよ。で、子どものいる女性陣は早々に帰るわけです。「うーん、私たちもなにかしたいわね」っていう感じで、ほんとに婦人部として立ち上がってこういうものをつくった。その中で高倉さんになんと、がんが見つかるんです。がんが見つかってから入院してっていう日々についても書かれています。今はもうお元気でいらっしゃいます。

福嶋:田口さんが事実を知ることの大切さを話されるのを聞いて、「そうだ、これ言うのを忘れてた」と思って。実は本屋大賞に、ここ2~3年ですか、ノンフィクションの部門が……。

徳永:去年から。

福嶋:去年からですか。こっちは僕すごく注目してて。

徳永:よろしくお願いします。

福嶋:実はノンフィクション賞ってたくさんあるんです。有名なのは大宅壮一賞とか、あるいは新潮ドキュメント賞とか、一度その全部の賞の作品を2カ月ぐらい並べたことがあるんですけど、どれも非常に興味深くて、ぜひノンフィクションというジャンルにもっと光を当てたい。読者があまり多くないので、ノンフィクションを掲載している雑誌もどんどんなくなっていってます。『月刊現代』ですとか、あるいはいろんな理由はあったんですけども、『新潮45』ですとか。ノンフィクションというのは非常に手が掛かって、またお金もかかる労作が多いんで、ぜひ目を向けていただきたいと思っています。それに本屋大賞が目を付けたというのは、非常に僕はうれしく思ってます。それだけ言いたかったです。

徳永:ヤフーニュースさんがメディアサポーターをしてくださっていて、4月の本屋大賞のネット中継をしていただきました。なにか一緒にするのなら、ノンフィクションでっていうことがお互いの話の中ででまして、ヤフーニュースと本屋大賞が連携して「ノンフィクション本大賞」を始めました。ぜひご注目いただけるとうれしいです。

第4回へ続きます。

福嶋聡(ジュンク堂書店)
1959年、兵庫県生。1981年、京都大学文学部哲学科卒。1982年2月、(株)ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)6年、京都店10年の勤務ののち、1997年11月仙台店店長。2000年3月より池袋本店副店長。2007年3月より大阪本店店長。現在、2009年7月にオープンした難波店店長。1975年から1987年まで、劇団神戸にて俳優、演出家として活動。1988年から2000年まで、神戸市高等学校演劇研究会秋期コンクールの講師を勤める。日本出版学会会員。著書に「書店人のしごと」(1991年 三一書房)「書店人のこころ」(1997年 三一書房)「劇場としての書店」(2002年 新評論)「希望の書店論」(2007年人文書院)「紙の本は、滅びない」(2014年 ポプラ社)「書店と民主主義」(2016年人文書院)「書物の時間」(2017年けやき出版)、「フェイクと憎悪」(共著 2018年)大月書店など多数。

徳永圭子(丸善博多店)
1974年生まれ。書店員。現在丸善博多店勤務。本屋大賞、地域イベントのブックオカなどの本のイベントに実行委員として携わる。

田口幹人(リーディングスタイル)
1973年、岩手県生まれ。盛岡の第一書店に就職後、5年半の勤務を経て、実家のまりや書店を継ぐ。店を閉じ、2005年にさわや書店に再就職。独自の店づくりと情報発信によって、さわや書店フェザン店から全国的なヒット作を多く送り出す。2019年さわや書店を退社。現在は㈱大阪屋栗田(現楽天ブックスネットワーク)に勤務。地域の中にいかに本を根づかせるかをテーマに、中学校や自治体と連携した読書教育や、本に関するイベントの企画、図書館と書店の協働などを積極的に行う。著書に『まちの本屋 血を継ぎ、知を編み、血を耕す』、編著書に『もういちど、本屋へようこそ』がある。

 

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