第1回 全体の紹介と裏話(中西嘉宏)
宗教、ポップカルチャー、成長する経済、そして日本国内の身近なコミュニティまで――変化の激しい東南アジアの「今」を、私たちはどのように読み解き、学べばよいのでしょうか。
2026年1月に刊行された『東南アジアを学ぶ人のために』(世界思想社)の出版記念イベント「東南アジアの読み方、学び方――プロの視点×学生のリアル」が開催されました。
最前線の研究者による知見を紹介した第1部より、初回は編者・中西嘉宏さんによる本の紹介をお届けします。

こんにちは。京都大学東南アジア地域研究研究所の中西嘉宏です。今回は『東南アジアを学ぶ人のために』という本の出版した記念として、「東南アジアの読み方、学び方――プロの視点×学生のリアル」というタイトルのイベントを開催します。
私はこの本で野中葉先生と一緒に編者をしましたが、簡単に自己紹介をすると、私は主にミャンマーを中心として、東南アジアの政治の研究をやっています。政治と軍隊の関係、民族や宗教問題の研究などをメインにしています。
もともとミャンマーに関心を持ったのは、政治学の勉強の延長でして、ミャンマーってちょっと変わった国なので(今も変わった国のままですけれども)、変わった国に関心を持って。当時は民主化が叫ばれつつも、バリバリの軍事政権だったので、関心を持っていくようになったわけです。博士課程で長く滞在して、それから現在に至るまで、こういう言い方が適切かわかりませんが、腐れ縁みたいな形で、ずっとおつきあいをしているという感じです。
本の成り立ちと特長
最初にこの本自体の企画を世界思想社からいただいて、そこから野中先生にも編者に入ってもらって、章立てを考えていったわけですが、東南アジアの入門書としてどうやって独自性を出そうかなといろいろ考えました。『学ぶ人のために』シリーズにはたくさんのラインナップがあって。私が知っている中でも『南アジア社会を学ぶ人のために』や、『アフリカを学ぶ人のために』、この東南アジアの前には『中東を学ぶ人のために』も出ています。どの本も多様なトピックが扱われていることは共通しています。そのうえで『東南アジアを学ぶ人のために』での特長は3つあります。

1つ目に、ただ教科書的に、政治でも経済でも文化でも宗教でも言語でもいいんですが、あるテーマについて網羅的に書いたものよりも、テーマの中の1つのトピックについて、経験談でもいいので、もうちょっと面白みのあるもの、具体的なものを書いてみましょうという話になりました。東南アジアの教科書となると、大学の3・4年生から大学院の1年生ぐらいまでを読者層としてターゲットとすることが多いんですけれども、もう少し手前、東南アジアに関心があるかどうか、ちょっとあるな、ぐらいの人が、教科書を読む前に「読み物」として読めるようにしました。
もう1つの特長として、東南アジアというのはもう外国と言うよりも、身近なところで接するような国であり、文化であり、言語であり、人であるということに注目しています。
今回、久しぶりに慶應の三田キャンパスに来ましたけれども、前回来た時、というか来ようとして来れなかったことがありまして。研究会のために向かっていたのですが、新幹線が途中、静岡の手前まで停まって、結果的に絶対に間に合わない時間になり、静岡駅で降りざるを得なくなりました。それで静岡駅で降りて、駅前のコンビニに行ってみたら、ものすごく混んでいるコンビニをミャンマー人の女性が2人で回してたんです。ものすごい大量の列を。
東京や京都でも、ミャンマーをはじめ東南アジア出身の人たちがいっぱい働いています。身近なところに東南アジアがあるので、『東南アジアを学ぶ人のために』って、外国のことを知るために読むんじゃなくて、日本のことを知るために読むという意味にもなるだろうということで、そこについては「日本とともに」という大きなセクション(部)を設けました。
そして3つ目の特長として、日本における東南アジアのイメージは1980年代ぐらいの昔に、ある程度固定化されたようなところがありました。それをどんどん変えていくきっかけになれば、という気持ちで、著者のみなさんにも執筆をお願いしましたし、編者としても編集をさせていただきました。
それから、本書全体のイメージとして、自分が学生だった頃に東南アジアやアジアに関心を持つきっかけとなったのは、AERAムック(朝日新聞出版)の『アジア学のみかた。』という本を読んだことでした。見開き2ページでインタビューに答えながら、自分の研究歴や、こういうテーマがこれからおもしろいんじゃないかというのがバーッと並んでいる本があって。客観的に書かれつつも研究者の個人個人が人としてそれぞれの国と関わって新しい発見をしていっているような気がして。どんなに客観的に書いていっても、必ずその人の個性が出るものだから、その個性を隠さずに表に出してくださいというのが、今回の執筆の時にお願いしたことです。
今日の発表も、そういう話がたくさん出てくると思いますので、堅苦しい雰囲気というよりも、楽しく聞いて、みんなで楽しく話ができればなと思います。

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【目次】
序 東南アジアを学び、ともに生きる(中西嘉宏・野中葉)
第Ⅰ部 歴史と自然
1 経済史──スパイスと港町が世界をつなぐ(小林篤史)
2 脱植民地化──終わりのない物語(長田紀之)
3 気候──熱帯泥炭地と人びとの暮らし(小川まり子)
コラム1 心やさしき仏教の末路(伊東利勝)
コラム2 岐路に立つカリマンタンの「森」の世界(寺内大左)
第Ⅱ部 社会と文化
4 民族──支配と生活を映す鏡(田川昇平)
5 宗教──社会のなかで創られ続ける「宗教的なもの」(久志本裕子)
6 若者──ポップカルチャーにみなぎるエネルギー(金 悠進)
7 ジェンダー──保守と進歩の対立を超えて(西川 慧)
コラム3 海の上に暮らす人びと(中野真備)
コラム4 シダ納豆は稲ワラ納豆よりおいしい?(横山 智)
第Ⅲ部 経済と政治
8 経済成長──多様性が織りなすダイナミズム(熊谷章太郎)
9 民主主義──キャラ立つ指導者たちの功罪(中西嘉宏)
10 紛争と和平──民族自決と国家主権のはざまで(谷口美代子)
コラム5 「伝統」で稼ぐ生薬売り(間瀬朋子)
コラム6 ある移民の人生(細田尚美)
第Ⅳ部 日本とともに
11 日本軍政の記憶──インドネシアに残るさまざまな痕跡(津田浩司)
12 東南アジアでの日本ビジネス──拡大、深化から共創の時代へ(梅﨑 創)
13 日本での東南アジアコミュニティ──急激な流入と進む定住化のゆくえ (野中 葉)
コラム7 日本・東南アジア安全保障協力の新展開(鈴木絢女)
コラム8 技能実習生の横顔(山口裕子)
索 引



