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女性の貧困

誰にも注目されていない高齢女性の貧困

 厚生労働省が公表する日本の相対的貧困率には、男女別の数値がありません。また、人口全体と子どものみの集計はありますが、年齢別の数値もありません。でも、これでは日本の貧困の状況はわかりません。貧困率は、性別、年齢で大きく異なるからです。

 図1に示しているのが、性別、年齢別の貧困率です。これを見て、まず、気づくのが、成人期においては女性の貧困率は男性の貧困率をほぼすべて上回っているということです。唯一の例外は、25歳から29歳で、これは、この年齢期は女性の方が男性よりも結婚している割合が高いからです。日本では、結婚している人の方が、結婚していない人よりも、貧困率が低いので、結婚している割合が多いということは、貧困の人も少ないということなのです。
 貧困率は、女性も、男性も、高齢期には増加していきます。特に女性は、高齢期の貧困率が高く、75歳以上は25%を超えます。なんと、4名に1名が貧困状況なのです。

貧困率の推移

 高齢期になると、仕事を退職した人も多くなりますから、現役の時に比べ、収入が少なくなります。確かに、厚生年金や国民年金といった公的年金制度がありますが、それらが保障する年金の金額は、現役世代の収入に比べれば少ないです。「私は年金に頼らない。一生現役で頑張る」と張り切っていても、実際には、現在、日本の高齢者世帯は、収入の63.6%を公的年金に頼っており(厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」表8)、高齢者世帯の半数は公的年金以外の収入がない(厚生労働省「2019年国民生活基礎調査」図11)という現実を見ると、一生、働き続けるのもそう容易ではないことがわかります。

 ですが、この状況は、「前に比べればまだまし」なのです。図2をご覧ください。これは、1985年から2015年にかけての年齢3層別の貧困率です。この30年間で、何が起こったか。20歳以下と20-64歳の貧困率が上昇し、65歳以上の貧困率が低下しました。1985年の時点においては、「日本の貧困問題は高齢者の貧困問題」といっても過言ではなかったのですが、2015年では、高齢者と子どもや勤労世代の貧困率がほとんど変わらなくなりました。男性では。
 これは、日本の社会保障制度の功績です。1961年に「国民皆年金」の制度が成立しました。厚生年金に加えて、国民年金が整備され、20歳以上の国民のすべてが、公的年金に加入することが可能となったわけです。しかし、1985年時点においては、まだ無年金者や低年金者も多かったため、高齢期の貧困は大きな問題でした。それから、60年。いま、高齢期に突入している人の多くは40年間公的保険にカバーされており、老後の貧困のリスクがぐっと下がっています。男性では。

高齢女性の貧困

 しかし、女性はどうでしょう?
 この30年間、継続して断トツで貧困率が高いのが高齢女性です。確かに、1985年には25%近く、1994年では25%を超える数値であったものが、2015年には22.3%ですから、若干の減少は見られます。しかしながら、この間、男性高齢者の貧困率が大幅に下がったので、男女間の格差は、1985年の3.6%から、2009年には最高の7.8%、2015年時点では6.0%となっています。この30年間、男女格差が大きくなったのです!そして、高齢女性は他の人々とはかけ離れて貧困のリスクが高いグループとなってしまいました。
 一番悲しいのは、高齢期の女性の貧困問題や、年金の不十分さといったことが、まったくと言ってよいほど政治課題となっていないことです。子どもの貧困や、若者の貧困は、メディアの注目もあり、人々の関心も高くあります。しかし、高齢女性の貧困については、メディアも、政治家も、研究者も、誰も注目していません。「国民皆保険」が達成されてから、60年もたつのです。半世紀以上です。しかし、公的年金制度は、女性の貧困にはそれほどの恩恵をもたらしていません。むしろ、財政難から、近年の改革は、みな、公的年金を下げることに議論が集中しており、年金制度の男女格差については何の議論もありません。
 そもそも、日本の人口の、16.2%、6人に1人は65歳以上の女性です(統計局 人口推計 2020年10月概算値 年齢(5歳階級)、男女別)。それなのに、なぜ、高齢女性の貧困問題が政策の机上に取り上げられないのでしょう?貧困は誰にでも厳しい状況ですが、人々がそれを深刻と考える度合いは、それが誰なのかによって異なるようなのです。そして、高齢女性は誰よりも「貧困でもしかたないか」「貧困でもいいや」と思われているのではないでしょうか。

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著者略歴

  1. 阿部 彩

    海外経済協力基金、国立社会保障・人口問題研究所を経て、2015年より首都大学東京(現東京都立大学)人文社会学部人間社会学科教授。同年に子ども・若者貧困研究センターを立ち上げる。専門は、貧困、社会的排除、公的扶助。著書に、『子どもの貧困』『子どもの貧困II』(岩波書店)、『子どもの貧困と食格差』(共著、大月書店)など。

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