世界思想社のwebマガジン

MENU

女性の貧困

女と男の「孤立」

 先月、2月12日に、「孤独・孤立担当大臣」が任命されました。新型コロナウイルス感染の拡大で、孤立の問題が深刻化しているとのことで、「孤独・孤立」に政府として取り組む必要があるとのことです。少子化対策・地方創生担当の坂本哲志大臣が、この任務も担当することとなり、25日には、関係省庁を集めた連絡会議が立ち上げられると、総理大臣が表明しました。

経済状況と「会話」の多寡

 実は、「孤立」は、貧困と密接な関係にある課題です。さまざまな調査にて、所得が低いほど、人間関係が希薄なことが報告されています。貧困であると、孤立しやすい。この関係性は自明なことではありません。考えてみてください。例えば、お金に困った時に頼れる人、用事や物事を頼める人といった人間関係については、経済状況によって格差があるという理屈がつきます。裕福な人の方が、裕福でない人に比べて、経済的にも時間的にもゆとりがある友人や家族が多いでしょう。「月末まで5万円貸して」といって、「いいよ」と貸してくれる友人や、「明日、子どもを見てくれる?」と聞いたら「大丈夫」と答えてくれる家族や知人は、やはり、経済状況がよい人や、時間に融通が利く人でしょう。

 しかし、おしゃべりをしたり、一緒に時間を過ごす・・といった人間関係についても、経済状況と関連しているのでしょうか。ひと昔前であれば、会話をするためには、物理的に移動しなくてはいけませんでしたが、今は、ケータイ電話一本で繋がる時代ですから、お金をかけなくてできるはずです。お金がなくても、家族や仲間に囲まれて、わいわい、楽しく生きていく・・・そういった暮らしがあるのではないか、いや、むしろ、お金があることによって人間関係がぎすぎすしてしまったり、疎遠になったりするのでは。そう考えている人も多いと思います。

 ですが、残念なことに、このような本来であれば経済状況と関係のない人間関係であっても、現代日本では、経済状況と関連があることがわかってきました。ただ愚痴をきいてくれる人、すれ違ったら挨拶をする人、たわいもない会話をする人といったことについても、経済状況のよい人の方が、悪い人よりも多くの関係を持っているのです。図1は、国立社会保障・人口問題研究所が2017年に行った全国調査(「生活と支え合いに関する調査」)で「あなたはふだんどの程度、人と会話や世間話をしますか(家族との会話や電話でのあいさつ程度の会話も含みます)」との質問に「2週間に1回」以下と答えた人の割合を示しています。所得階級を10に分けた上で集計すると、一番下の階級の人は7.5%、一番上の階級の人は0.6%と大きな差があり、所得階級が低いほど、会話の頻度が少ない人が多いことがわかります。

 

「孤立」の男女差

 しかし、このルールに従わないことが一つあります。それは、孤立の男女差です。女性の貧困率は、男性の貧困率に比べて、どの年齢層を見ても高いですが、女性の孤立率は、男性の孤立率に比べて、圧倒的に低いのです。図2は、上と同じデータですが、年齢層と性別に分けて集計したものです。見てください。どの年齢層においても、女性の方が孤立している人の割合が少ないことがわかります。

 実は、女性は貧困であっても、男性に比べると、孤立していない人が多いのです。少なくとも、「会話」に関しては明らかに多いということがわかっています。この理由は、あくまでも一般論ですが、女性の方が、男性よりも、家族も含めて人と繋がることが上手であり、また、家族以外にも、地域の人々などとの交流もあるからでしょう。それに比べ男性は仕事以外での人間関係が希薄であり、家族であっても疎遠になりがちであると言われています。

 もちろん、ただ、誰かと会話をする、それだけが重要ということではありません。私たちはたくさんの会話を職場でしますが、職場での会話は、その多くは仕事に関係するものですから、会話の多さや少なさだけから、人間関係の「質」を測れるものではありません。また、会話の中にも、苦痛な会話や、あまりコンテンツがない会話もあるでしょう。例えば、あまり知らない人たちと話すことが苦手という人は、たくさんいます。また、個人的な話になりますが、私は高校生の息子と毎日、話をしますが、その内容は、ここ3年間ほど、ほぼ、「今日の晩御飯はなに?」「〇〇のお金ちょうだい」に限られています。どう見ても、豊かな会話ではありません!

 ですが、このようなたわいない会話であっても、「会話」は、人間が他者とコミュニケーションをとる一番大きなツールであり、「会話」が多いことは、人が他者とコミュニケーションをとらなくてはならない状況にあるということです。つまり、「会話」が多い人は、担う「役割」が多いのではないかと思うのです。職場では、「同僚」であったり、「上司」であったり、「部下」であったり、「商談相手」であったり、家族の中では、「母親」であったり、「妻」であったり、「娘」であったり、地域の中では、「お隣さん」であったり、「PTAで同じ役員になったお母さん」であったり、いつも行くお店の「お客さん」であったり。

 女性が男性よりも、会話の頻度が高いことは、女性の方が、男性よりも、社会において担っている「役割」が多いことを表しているのではないでしょうか。「役割」が多いことは、自分の時間がなかったり、心身的にも疲れ果ててしまったりと、大変なことも多いですが、長い目で見れば、「豊かな」人生なのでないでしょうか。

 それを考えると、経済状況が「会話」の多寡に大きく影響する男性に比べ、女性のほうがラッキーなのかもしれません。

バックナンバー

著者略歴

  1. 阿部 彩

    海外経済協力基金、国立社会保障・人口問題研究所を経て、2015年より首都大学東京(現東京都立大学)人文社会学部人間社会学科教授。同年に子ども・若者貧困研究センターを立ち上げる。専門は、貧困、社会的排除、公的扶助。著書に、『子どもの貧困』『子どもの貧困II』(岩波書店)、『子どもの貧困と食格差』(共著、大月書店)など。

閉じる