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頭脳資本主義の到来――AIはビジネスをどう変えるか?

2040年・建設の完全無人化は果たせるか?

人手不足が深刻化する建設業

前回、物流がどこまで自動化・無人化できるかを検討した。今回は、物流と同様に主に実空間に関わる業種である建設業について扱う。なお「建設」は、住宅やビルディングなどを作る「建築」と橋や道路などを作る「土木」の二つから構成されている。

建設業界では今、「10年後に100万人の労働者が不足するようになる」ということが合言葉のように唱えられている。運送業と同じように肉体労働を多く必要とするために、若いなり手が不足し平均年齢が上昇しており、自動化・無人化が望まれているのである。

かつて、バブルの頃にも建設ラッシュにより人手不足が発生し、自動化が試みられたことがあった。だが、バブル崩壊後は先端技術の導入は遅々として進まず、建設業の労働生産性は低迷を続けてきた。

しかし、現在、建設業の人手不足が再び深刻化するとともに、活用し得る技術が続々と出現してきており、かつてないほどに自動化の取り組みが行われている。

フィンテックやHRテックなどとともに、最近では「建設テック」(建設+テクノロジー)という用語も流布しており、「建設とAI」「建設とIoT」といった組み合わせでのイノベーションが加速しているのである。

建機のメーカで有名な小松製作所(コマツ)の野路國夫(のじくにお)特別顧問は、「AI(人工知能)とIoTを使いこなせない企業は衰退する」と言っているほどだ。

そんな中、2019年7月に内閣府の「ビジョナリー会議」は、「2040年までに建設工事の完全無人化」という目標を掲げた。そこでは、建設ロボットなどを使った「完全無人型の建設施工システム」の確立が前提とされている。

本稿では、建設業でどのような先端技術が導入されているのかを紹介しつつ、自動化がどこまで進んでいるのかを明らかにし、2040年までに完全無人化が実現するのか否かを検討したい。

3Dプリンタ

建設の自動化という点で最も分かりやすいのは、3Dプリンタの活用だろう。「建築模型」や「建築部材」の作成に用いるだけではなく、建築物全体を3Dプリンタで施工する取り組みまでもが進んでいる。

建築模型は従来、紙やプラスチックを組み合わせて手間暇かけて作られていたが、今ではコンピュータ上のCADソフトで設計したデザインのデータを3Dプリンタに読み込ませれば、短時間で自動的に「出力」することができる。複雑な凹凸や曲面などもかなりの精度で再現可能だ。

イギリスのAI Build社が提供している3Dプリンタシステムは、複雑なオブジェや建築部材を作り出すことができる。AIの先端技術であるディープラーニングが組み込まれており、使う度に学習し精度があがっていく。

日本でも、大林組が3Dプリンタを使ってセメント系の部材を製造する取り組みを行っている。2017年には、出力された部材を組み合わせて製作した「アーチ状の橋」を、2020年には、同じく「シェル型のベンチ」(曲面状の屋根に覆われたベンチ)をそれぞれ発表した。

建築物全体を3Dプリンタで作る試みとしては、2015年に中国のWinsun社が5階建てのアパートを建設した先駆的な例がある。また、2016年にはドバイで建設された世界初の3Dプリンタ製オフィスが話題となり、2017年にはモスクワ近郊でわずか24時間、費用110万円ほどで住宅も建てられている。

しかしながら、3Dプリンタによる建築物は、耐久性の面で問題があり、特に地震の多い日本では建築基準法が厳しく、建てることができない。ただし、災害時の仮設住宅については、短時間かつ安価で建築可能であることから、活用されていく可能性はある。

今のところ、建設において3Dプリンタが広く活用されているのは、建築模型の作成のみである。これに加えて、建築部材の製造にも今後普及していくものと見込まれるが、当面の間、建築物全体の施工では一般的になることはないだろう。

スマート・コンストラクションとアイ・コンストラクション

施工のほとんどを3Dプリンタに任せるような抜本的な自動化ではなく、これまでの建設工程にICT(情報通信技術)を導入して効率化を図る「半自動化」の取り組みが現在盛んになされている。その代表的な例が、コマツが2015年2月から行っている「スマート・コンストラクション」というサービスだ。

建設の工程は、「測量」「設計・計画」「施工」「検査」の4つから成り立っている。スマート・コンストラクションは、これら全工程にICTを導入することで、安全性と生産性の向上を目指す。

国土交通省は、コマツの後を追うように、2015年11月に「i-Construction」(アイ・コンストラクション)というビジョンを発表した。

これも、スマート・コンストラクションと同様に、建設業の全ての工程にICTを導入し、生産性を向上させていくことを主な目的としている。頭文字の「i」は、ICTのiでもあり愛情のiでもあるという。

アイ・コンストラクションは、特に3次元データの活用に力を入れている。すなわち、ドローンによる3次元測量や、そこから得られたデータに基づいた設計・計画、施工、検査などが推進されているのである。

国土交通省のこのビジョンは建設業界に急速に浸透し、今ではコマツのスマート・コンストラクションもこれに準拠する形をとっている。また、他の建設関連企業も競うように、ICTやスマートマシンの導入を図っている最中だ。以下では、特に「BIMによる設計」「ドローンによる3次元測量」「ICT建機による施工」の3つのテーマを取り上げていく。

BIMによる設計

設計の現場では、3次元CADのような立体的にデザインするためのツールが1990年代から使われてきた。だが、近年では3次元CADに代わって「BIM」(Building Information Modeling、ビム)と呼ばれるものが普及し始めている。

BIMもまた、立体的にデザインするためのツールだが、3次元CADが2次元の図面で設計したうえで3次元化するのに対し、BIMは最初から3次元で設計する。

壁や柱といったオブジェクトを組み立てて、建物の形状をコンピュータグラフィックスとして作り上げていくのである。さらに、各オブジェクトに、価格や素材、品番などの属性データを埋め込むことができる。

BIMの役割は、設計を効率化するに留まらない。BIMのデータは、測量、施工、検査などの全工程で役立てられる。例えば、施工の段階では、部材の価格や品番のデータがあれば手早く調達することができる。言ってみれば、最先端の建設はBIMのデータを軸に進められているのである。

また、BIMの変わった使い方としては、「ヴァーチャル・シンガポール」というプロジェクトが挙げられる。これは、BIMを用いてシンガポールの街並み全体を、コンピュータ上に3次元モデル化しようという試みだ。建設分野での活用のみならず、災害時のシミュレーション、渋滞の予測の他に、感染症の拡大の予測も行えるため、これから他の国、都市でも真似る動きが出てくるだろう。

ドローンによる3次元測量

ドローンによる測量は、コマツが2015年に、スマート・コンストラクションを提唱したのをきっかけに注目されるようになった。

「測量」というのは、建物を建てる領域の地形を調査し把握する作業だ。これまでは作業員が測量器を使って何日もかけて行なっていたが、今ではカメラ付きのドローンによって1日程度で行うことができる。一般には、ドローンが測量のために空撮した写真は、地面の起伏を表した3次元の地形データに変換される。

ソニーとZMP社の合弁企業であるエアロセンス社は、ドローンによる3次元測量をほぼ自動で行うサービス「エアロボ測量2.0」を提供している。ZMP社は、前回紹介した配送ロボット「デリロ」を製造している企業だ。

エアロボ測量2.0(注1)を利用した場合、対象となる領域を設定して、後はスイッチを押すだけでドローンが自律的に飛行し、その領域を空撮する。さらに、その撮影データをクラウド上にアップロードすると、AIが自動で3次元データを作成する。

測量用のドローン自体も最近では高度化している。「レーザードローン」は、2016年の熊本地震の被災地で土砂崩壊の調査に使われて注目を浴びたが、今では建設の際の測量にも用いられるようになった。

レーザードローンを使うと、木々が生えている場所でも隙間をすり抜け、その下に隠れた地表の起伏を把握できる。また、水を透過するグリーンレーザーを搭載したドローンまでも登場しており、河川の水底の地形の三次元計測すらも可能になっている。

ICT建機による施工

施工にICTを活用することを、「情報化施工」という。施工の情報化は、1980年代に一度試みられたが、位置情報を特定するためのGPSなどの技術が十分発達していなかったので進まなかった。

しかし、情報化施工もまた、スマート・コンストラクションやアイ・コンストラクションが提唱された2015年に本格的に開始されることとなる。

そこで中心的な役割を果たすのが、ブルドーザやクレーン、ショベルカーなどの建機にICTが組み込まれている「ICT建機」で、これには、「マシンガイダンス」(MG)や「マシンコントロール」(MC)といった仕組みが備わっている。

MGでは、建機の運転席に設置されたモニタに、設計データに基づいた作業位置が表示される。それを確認しながら、作業員は建機の操作を行う。例えば、ショベルカーであれば、地面を後何cm掘削すれば良いかなどが表示され、それに従い掘り進める。

MCでは、自動でショベルカーの先端のバケットを制御して地面を掘削したり、ブルドーザの前方の排土板を制御して土を押し出したりする。ただし、作業員が建機を運転して作業する場所まで移動させ、ある程度の操作をする要は残っている。

ところが、最近ではそれすらも自動化する取り組みが行われている。その一つが鹿島建設の「クワッドアクセル」である(フィギュアスケートで4回転半ジャンプを意味する言葉でもあるが直接関係はない)。

クワッドアクセルでは、作業員がタブレット端末などで作業計画を指示することで、複数の無人建機が計画通りに実際の作業を行う(注2)

すでに鹿島建設の施工作業の一部で試験的に導入されており、2018年11月の福岡県の小石原川ダム建設工事の現場では、管制室から指示を受けたダンプトラックやブルドーザなど7台の無人建機が5時間ほどで盛り土の作業を完遂した実績がある。

建設現場は工場になり得るか?

以上のようなICTの先端技術を導入することで向かっている方向というのは、一言でいうと「建設現場の工場化」だ。それは、工場で機械がオートマティックにモノを作るのと同様に、建設現場でもオートマティックに建物を建てられないかという試みを意味している。

建設業は、製造業と同様にモノ作り産業だ。だが、製造業が最初の産業革命以来、絶え間なく新しい機械を導入し、生産性の向上を図り続けてきたのに対し、建設業の技術進歩は度々停滞してきた。

製造業では、大量生産が行われるのに対し、建設業では基本的に1点のものを受注生産するからだ。おまけに、自動車のような大きい製造物であっても、工場内で作り上げることが可能であるのに対し、建設物は定められた現場で作業しなければならない。

例外的に大量生産が行われてきたのは、工業的な手法で供給されるハウスメーカの住宅だ。積水ハウスやミサワホームといったメーカのCMを見たことのある人も多いだろう。

ハウスメーカは、建築資材を工場で製造し現場で組み立てる「プレハブ工法」によって、大量生産を可能にしてきた。

生産性という面からすると良さそうに思えるが、一方で、モデルハウスを展示したり、CMを流したりすることにコストが掛かり、必ずしも安価な住宅を提供できているわけではない。

それゆえ、プレハブ工法の住宅が新規住宅に占める割合は2割以下に留まっており、未だに多くの住宅は単品受注生産なのである。

工場のロボットは、固定された位置に置かれて、定型的な作業を行えばおよそこと足りる。製造物やその部品はベルトコンベアーに乗って流れてくるし、全く同じ製造物を大量に作り続ければ良いからだ。ところが、建設業では毎回作業内容は異なるうえに、状況に応じた判断が必要とされる。

こうした判断を機械が代替するのは難しく、建機を運転・操作するのはあくまでも人間の作業員だった。そういう意味では、建設業はサービス業と同様に、「資本集約型」ではなく「労働集約型」の産業である。資本設備(機械設備)よりも労働者に依存する部分が大きいということだ。

しかしながら、本稿でこれまで見てきたように、AIやそれを組み込んだドローン、ICT建機などのスマートマシンが、小売や物流だけでなく建設業をも変えつつある。

ただし、建機の運転・操作が完全に自動化されたとしても、施工の全てが自動化されるわけではないだろう。前回、物流においてピッキング(モノをつかんで取り出すこと)をロボットに任せるのは難しいと述べたが、それ以上に、建設業における鉄骨の組み立てやタイルの貼り付け、窓ガラスのはめ込みなどをロボットに行わせるのは難しいと考えられる。

これらを行うとび職などの作業員は、手を器用に動かすだけではなく、不安定な足場でバランスをとりつつ移動しなければならない。こうした人間の手足と同様の働きをロボットが身に付けられるようになるのは、まだ先の話だ。

ピッキングの実用的な技術が実現するのは2030年くらいだと前回予測した。それを踏まえると、施工の自動化技術が出そろうのは、さらに先の2040年くらいになるだろうか。

そうした技術が十分普及するまでに15年掛かるとすると、建設工事のほぼ完全無人化が実現するのは2055年くらいになるだろう。

その時に残るのは、建設作業全体の「マネージメント」(管理)と設計の際のデザインという「クリエイティビティ」(創造性)を必要とする仕事だ。建設業では、物流と同様に客商売ではないので「ホスピタリティ」(もてなし)を直接求められることはないが、物流とは異なりクリエイティブな仕事が必要とされており、未来においても長らく残り続けるだろう。

注1「エアロボ測量2.0」エアロセンス社ホームページ。 (https://aerosense.co.jp/construction2

注2「クワッドアクセル」鹿島建設ホームページ (https://www.kajima.co.jp/tech/c_ict/automation/index.html#!body_01

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著者略歴

  1. 井上 智洋

    駒澤大学経済学部准教授。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。慶應義塾大学環境情報学部卒業、IT企業を経て、早稲田大学大学院経済学研究科で博士号取得。博士(経済学)。
    人工知能と経済学の関係を研究するパイオニア。

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