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頭脳資本主義の到来――AIはビジネスをどう変えるか?

金融業はIT産業の一部となる

AIが世の中にもたらすインパクト
前回、今のAIに可能なことは「認識」「意思決定」「制御」「自然言語処理」「コンテンツ生成」の5つだと述べた。こうしたAI技術は、世の中にどのようなインパクトをもたらすだろうか?それは、図1のように「自動化」「最適化」「利便化」の三つにまとめられる。

図1
図1 AIが世の中にもたらすインパクト

自動化は、文字通り人手を使わずに機械が自動的に仕事をこなすことを意味する。したがって、完全な自動化は「無人化」を意味する。例えば、完全な自動運転車が普及すれば、無人タクシーが可能となるだろう。

物理的な自動化は主に「制御」技術によって可能となる。これはAIに限った話ではない。既存の産業用ロボットでもアームによってモノをつかんで運ぶことができる。

ただし、「バラ積みピッキング」といって、大きさや形がマチマチのモノをつかむのはこれまで難しかった。それが今では、今回のAIブームの火付け役になった技術「ディープラーニング」を用いることで可能となっている。

このようにAIによって「制御」が高度化するだけではない。AIを組み込んだ機械、つまりスマートマシンは、「認識」し「意思決定」を行ったうえで「制御」できるので、より強力な自動化の役割を担うことができる。自動運転車がここまで発達してきたのは、とりわけ画像認識技術の精度が高まったことに拠っている。

なお、自然言語処理によって可能となった自動翻訳や絵画や音楽などを自動で生み出すコンテンツ生成は、言うまでもなく「自動化」というインパクトをもたらすことになる。

AIが他の機械と比べて際立って異なるのは、物事を「最適化」できるという点だ。既存の機械も生産活動を「自動化」し、私達の生活を「利便化」してきた。しかし、最適化はAIならではの能力と言えるだろう。

最適化は、主に「意思決定」の技術によって可能となる。前回述べたように、アルファ碁という囲碁の AI は、どこに碁石を置くべきかという意思決定を行っている。ゲームに勝つための最適な手を考える「最適化問題」を解いているのである。

正しく意思決定を行うには、状況を認識して判断材料を得なければならない。したがって、画像認識や音声認識といった「認識」の技術も必要である。アルファ碁では、盤面のどこに碁石が置かれているかということをパターンとしてつかむために画像認識技術が用いられている。

利便化は、ここではAIが商品やサービスに組み込まれることによってより便利になることを意味する。これまでも私達は、人の顔に自動的にピントを合わせるカメラの「オートフォーカス」や指紋認証、顔認証といった画像認識を応用した機能によって、利便性を享受してきた。

おおざっぱに言うと、AIは生産活動を「自動化」し、社会を「最適化」し、生活を「利便化」する。もちろん、自動化が社会にインパクトを及ぼしたり、最適化が生産活動に役立てられることもあるが、ここではそのように単純化して整理する。今回と次回は、生産活動の「自動化」について取り上げたい。

AIは定型的な作業に向いているという誤解
「最適化」こそが他の機械とは異なるAI独自の能力だと述べたが、より論争のタネになるのはむしろ「自動化」の方だ。というのも、自動化は、これまで人間が行っていた労働を機械に置き換えることを意味するからだ。

こうした機械による労働の代替可能性は当然、職業が消滅するかどうかとか、雇用が減るかどうかといった労働者にとって死活問題に繋がるような論争を巻き起こす。

ただ、自動化による労働の代替そのものは最初の産業革命から繰り返し起きてきたことだ。図2のように、縦に作業の行われる場が情報空間か実空間かをとって、横に作業が定型的か非定形的かをとって説明しよう。情報空間の作業は頭脳労働を、実空間の作業は肉体労働を主に意味している。一般に前者はホワイトカラー、後者はブルーカラーによって担われている。ホワイトカラーは、頭の中や帳面上で情報を操作したり加工しているのである。

図2のように、第一次産業革命では蒸気機関が、第二次産業革命では電気モータが、それぞれ工場の動力として導入された。それによって、定型的な肉体労働がある程度機械によって代替されてきた。

図2
図2  産業革命によって代替される労働

今、私達は第三次産業革命=IT革命のただ中にいると考えられる。情報空間における定型的な作業である事務労働の代替は今なお進行中である。実際のところアメリカでは、コールセンターや旅行代理店のスタッフ、経理係などの事務的な職業の雇用が減少している。

AIに関して頻繁になされる誤解の一つは、AIは定型的な作業に向いているというものだ。この誤解から、定型的な作業はAIに任せて、人間は非定型的な作業に専念するようになるといった間違った予測が生じてくる。

しかしそうではなく、AIは他のデジタル技術と異なって非定型的な作業を担えるところにその際立った特徴がある。それは、まさに「認識」や「意思決定」を行えるからだ。

棋士の仕事を定型的な作業という人は少ないだろう。そうであれば、囲碁のチャンピオンを打ち負かすだけの能力を持つに至った今のAIを定型的な作業に向いているなどと言っては過小評価になってしまう。

既にAIによって代替されている職業
実際アメリカでは、一部の非定型的な労働が目に見えてAIによって代替されている。その職業は、証券トレーダー、資産運用アドバイザー、保険の外交員などである。いずれも、金融業における比較的知性を必要とする職業だという点に注意して欲しい。

今回のAIブーム以前からの話だが、証券トレーダーの仕事は、「ロボ・トレーダー」に置き換わってきた。これは「ロボ」と名がついているが、物理的なロボットではなく、株式などの取引を自動で行うソフトウェアである。

東京証券取引所で行われる取引のおよそ40%は、ロボ・トレーダーによって行われていると言われている。特に、「高頻度取引」(High-Frequency Trading, HFT) と呼ばれる千分の1秒より短い時間での取引は、ロボ・トレーダーの独壇場だ。現在ではさらに 10 億分の1秒での競い合いになっており、速さという点では人間のトレーダーは全く歯が立たない状況だ。

ゴールドマンサックスに雇用されていたトレーダーが、2000年には600人だったのが、2017 年には2人に激減した話は有名だ。代わって 200 人のシステム・エンジニアが雇用されたのだが、減ったトレーダーの人数より大幅に少ないことは特筆すべきだろう。

というのも、これから至る所で同様なことが起きてくるからだ。すなわち、デジタル技術は確かに雇用を生み出すが、その増大分は基本的には減らした雇用を上回らないということだ(その理由についてはまた別の機会に論じる)。

近年金融業で、ロボ・トレーダー以上に注目を集めているのは、「ロボ・アドバイザー」である。これは、資産運用や保険の購入に関するアドバイスを行うソフトウェアだ。このロボ・アドバイザーこそが、人間の資産運用アドバイザーや保険の外交員の雇用を減らしている。

なぜ金融業でIT化が進むのか?
これから、あらゆる産業が IT 化されていくが、金融業はほぼ完全にIT化され、IT産業の一部になるだろう。なぜなら、金融業は情報空間で閉じており、しかも「人間性」(人間らしい感性や思考)をさほど必要としないからだ。

情報空間で閉じているというのは、モノを運んだりモノを作ったりといった実空間の作業をほとんど行わないということだ。金融業が主に扱うのは、物理的なモノではなく情報だ。それも数値データであり、数値データの処理はそもそもコンピュータが得意とするところだ。

第四次産業革命は、図2のように二つの段階を踏むと考えられる。まずは、AIによって情報空間における非定型的な作業が置き換わり、次にAIが組み込まれた賢い機械「スマートマシン」の普及によって、実空間における非定型的な作業が置き換わっていく。

スマートマシンを実現するには、AIという頭脳部分の他に手足となって動くメカの部分も作らなければならないので、それだけ研究開発に時間が掛かる。それゆえ、金融業のような情報空間で閉じている産業こそが、真っ先にAIを含むITによる労働代替が進み、ほとんど全てがITによって担われるようになる。物流や建設、農業などの実空間に関わる業種では、物理的な装置を多く必要とするので、全てがIT化されるわけではない。それでも、AIを含むIT(あるいはスマートマシン)がこれらの業種でも中核的な役割を果たすようになり、自動化が進むだろう。その点については、次回に論じたい。

こうして第四次産業革命の期間に、非定型的な作業すらも機械に置き換わっていくだろう。それでも、人間に残される作業があって、IT化の推進つまりシステム・エンジニアなどの仕事以外には、「人間性」を必要とするものだ。

人間性、つまり人間ならではの感性や思考を必要とする作業は、「クリエイティヴィティ」(創造性)「マネージメント」(管理)「ホスピタリティ」(もてなし)に関わっている。

クリエイティヴィティは創造性ということだが、単純に音楽を作ったり、絵を描いたりといったことであれば、ある程度AIに置き換わっていくだろう。今でも、AIはバッハっぽい曲を作ったり、レンブラントっぽい絵画を描いたりできる。そうではなく、斬新な作品を作って世の中に受け入れられるということがAIには困難なのである。

金融業にも、新しい金融商品の開発といったクリエイティヴな仕事がある。また、金融システムやそのシステムを開発・運営するエンジニアの「マネージメント」が必要だし、ロボ・アドバイザーでは物足りず、「ホスピタリティ」の高い人間の資産運用アドバイザーを求める顧客も消滅はしないだろう。

したがって、金融業が完全にIT化されるとまでは言えない。それでも、いずれは「ほぼ」全てがIT化され自動化されるものと考えられるのである。

三菱UFJ銀行は、2023年度までに6000人の削減を、みずほ銀行は2026年度までに1万9000人の削減を既に発表している。しかし、それらはけっしてゴールではなく、人員削減のプロセスはその後も続き、行員のほとんどがシステム・エンジニアになるまでは止まることがないだろう。

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著者略歴

  1. 井上 智洋

    駒澤大学経済学部准教授。専門はマクロ経済学、貨幣経済理論、成長理論。慶應義塾大学環境情報学部卒業、IT企業を経て、早稲田大学大学院経済学研究科で博士号取得。博士(経済学)。
    人工知能と経済学の関係を研究するパイオニア。

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