日本のパスポートはどこの空港でもウェルカム? 「私の場合はちがいます」【京都精華大学学長、ウスビ・サコ】
マリ共和国出身、京都精華大学学長、日本在住30年のウスビ・サコさんに、お話をうかがいました。
日本のパスポートが強いって、本当?
私は1991年に来日し、2002年に日本国籍をとりました。
でも、日本国籍をとってからのほうが、トラブルがたくさん起きました。たとえば、
「おまえ、本当にジャパニーズか⁉」
などと言われて、何度も空港で止められました(翌日の便に変更しなければならないこともありました)。
「日本のパスポートは強い」と、よくいわれますが、私の場合はちがいます。
日本のパスポートには、生まれた地域の記載がなく、本籍(私の場合は「KYOTO」)が書いてあります。私のパスポートには、マリに関する情報がいっさいないのです。
あるとき、私のパスポートを見たフランスの空港の入国審査官は、「はっ? 君、何?」といったリアクションでした。パスポートを調べ終わると、一応、大丈夫だと言ってもらえはしましたが、どうも腑に落ちない様子です。
「まあ、とにかく日本に帰化できたということは、スポーツ選手か何か?」
と質問されたのですが、はたして私のこの体型でどんなスポーツができるものだろうか、と不審がる様子。最終的な彼の結論は、こうでした。
「相撲取りか」
――いや、相撲取りにしては、もの足りないでしょ。
日本の空港でも、トラブルが起きます。入国審査は、わりと大丈夫なのですが、そのあとの税関でトラブルになりがちです。
パスポートの提示を求められ、英語でいろいろと質問されるのです。
「滞在期間は?」
――わかりません。
「在留カード出して」
――もってません。
税関職員からすると、ものすごく尊大な外人に見えるようで、よく怒られてしまいます。私が冷静に「パスポートを見てくださいよ」と言うと、ようやく「おう……」と言って、私が日本国籍であることに気がつきます。
そんなことがあっても大抵、謝ってもらえません。何事もなかったかのように、「申告するものはありませんか」などとやり過ごされてしまいます。
ステレオタイプ
「多様性」が重視される時代ですが、「外人」というステレオタイプ(固定観念)は、いまもなお強く残っています。
マリ出身であることを告げると、「家のまわりに動物がたくさんいてうらやましい」「視力がいいでしょ?」と言われることも、たびたびありました。
以前、テレビに出演したときには、「黒人大学長」というテロップをつけられました。テレビ局の人に尋ねてみたところ、日本の放送禁止用語にはあたらないとのことです。でも、「白人大学長」と書くことはあるのでしょうか。
『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』という本では、私が「なんでやねん」と思った体験をつづりながら、「日本人が気づいていない日本」を紹介しました。みなさん自身が、身のまわりのあたりまえに対して「なんでやねん」という「問い」をもってくださるきっかけになったら、うれしいです。
「外人」や「日本人」をめぐる話が、サコさんの著書『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』の8章「外人――マリにハロウィン、ないねんけど」や9章「日本人――朝ごはんから、全体主義?」で詳しくつづられています。
以下から、一部の章の全文をためし読みいただけます。
【ためし読み】『ウスビ・サコの「まだ、空気読めません」』
*青色の章をお読みいただけます。
はじめに
――にぎやかでよろしいね
序章 空気読めない
――暗号の国
1章 無宗教
――「いただきます」って、宗教やん
2章 住 宅
――日本はスリッパ多すぎる!
3章 おもてなし
――逆にこっちが、疲れるし
4章 花 見
――暗くて桜、見えへんやん!
5章 マナー
――まわり見えてない行列やな
6章 観光地
――この場所、矛盾だらけやで
7章 外 人
――マリにハロウィン、ないねんけど
8章 日本人
――朝ごはんから、全体主義?
終章 空気を読む
――共生の知恵
おわりに
――「なんでやねん」という哲学