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『基礎ゼミ 社会学〔第2版〕』はじめに

社会学でレポートを書くには?

 あなたは先生から「〇〇についてのレポートを書きなさい」と言われて困ったという経験はありませんか。もしあなたが大学4年生なら、このことで困ってしまっていたら、先生の方も困ってしまいます。しかし、あなたが大学1、2年生なら、困ってしまっても、当然かもしれません。なぜなら、まだそういうトレーニングを受けていないのですから。

 とはいえ、あなたはレポートの書き方についての授業は受けているかもしれません。近年では、大学1、2年生向けに、「大学生入門」「大学基礎講座」というような、学び方のテクニックやノウハウを教える授業があります。それ用の教科書も多くあります。そこでは「レポートの書き方」だけではなく、「図書館の利用のしかた」や「情報検索の方法」などが丁寧に説明されています。しかし、「レポートの書き方」を学んだとしても、「レポートを書きなさい」と言われたときのあの悩みは解消されないでしょう。レポートを書こうとしても、「問い」が立てられない、「資料」が読めない、「考察」ができない、「理論化」にもっていけない、というのが正直なところではないでしょうか。「畳のうえで泳ぎ方を練習しても海で泳ぐときには役に立たない」というたとえ話がありますが、それに近いかもしれません。

 また、あなたがレポートを書こうとしたときに大きく立ちはだかる(?)のは、はじめて学ぶ学問である「社会学」そのものかもしれません。大学では、社会学をはじめて学ぶ人のために、「社会学入門」とか「社会学概論」といった授業も用意されています。いろいろな話題を社会学的なものの見方•とらえ方から説明する授業を聞いて、「社会学はおもしろいなぁ」と感じてくれたとしたらとてもうれしく思います。しかし実際には、「社会学が扱う領域はすごく広いなぁ」とか「なんでも 「社会学」 なので、かえってとらえにくいなぁ」と感じている人が多いようにも思います。

 社会学の「自由さ」の前に立ちすくみ、「問い」が立てられない、「資料」が読めない、「考察」ができない、「理論化」にもっていけないと悩んでいる人に対して、「〇〇についてレポートを書きなさい」とか「〇〇について議論しなさい」などといきなり言うのは酷なことです。「社会学」と「(テクニックを含む)学びの行為」を別々に学んでいるのですから、当然といえば当然のことかもしれません。

 そもそも、「社会学」(に限らず大学で学ぶ学問全般)と「問う」「資料を読む」「考察する」「理論化する」という行為は重なって存在するものです。だとしたら、それらを別々に学ぶのではなく、一体化して学ぶ方が有効であり、またそれが本来の姿のように思います。一体化して学ぶことによって身につく、社会学に基づいて考える力、議論する力、書く力こそ、大学での学びにふさわしいのではないでしょうか。

「基礎ゼミ」での学び

 多くの大学では「基礎ゼミ(演習)」や「入門ゼミ(演習)」といった授業が用意され、3、4年生での専門的な「ゼミ(演習)」への橋渡しとしているようです。考えてみれば、この「基礎ゼミ」や「入門ゼミ」ほど、「社会学」と「学びの行為」を一体化して学ぶのに適した授業はないように思います。

 この本のタイトルは、そのものずばり『基礎ゼミ 社会学』です。まさしく、1、2年生に「社会学」と「学びの行為」を一体化して学んでもらうことを目 的とした教科書です。以下ではこのタイトルについて説明しながら、この本の特徴を紹介したいと思います。

 「基礎ゼミ」の「ゼミ」とはそもそも何なのでしょうか。教科書的にいいますと「seminar(ドイツ語でゼミナール、英語でセミナー)を略した言葉。少人数で、双方向的に、あるテーマに関して議論を行う授業形態」です。もう少しかみくだいていうと、あるテーマに関して、仲間(そこには先生も含まれています)と議論をしながら一緒に考える授業、また、その実践を通して、仲間とともに高めあう授業、とでもいえるでしょうか。「仲間とともに種子(たね)をまく空間」と述べた人もいたようです。このことを理解してもらうために、第 1 章では架空のゼミの様子を描いています。それによってゼミの空気感をつかんでもらえたらうれしく思います。

 ゼミというのは黙って座っているだけではまったくおもしろくありません。みずから積極的に取り組まないと、得るものはほとんどないでしょう。そこで、この本では 20~30 分くらいの時間を必要とする【グループワーク】を各章に1つ入れています(表0-1の「グループワークの方法」を参照)。【グルー プワーク】の課題を使ってゼミの仲間と議論したり作業したりして、みんなで考えるという体験を積み重ねてほしいと思います。

 そのほかに、数分で終わるくらいの簡単な【ワーク】やじっくり時間をかけて取り組む【ホームワーク】を用意しています。【ワーク】については各章のおわりに【ワークシート】をつけています。それに書き込むことで、自分の考えを具体化、可視化してください。

社会学って何? 

 タイトルにある「社会学」は、いうまでもなく、あなたが学ぼうとしている/学びはじめた学問です。この本を手に取っているあなたは、多くの場合、社会学部とか社会学科とか社会学コースとかに在籍していることでしょう(もちろん、そうではない場合もあると思います)。そういうあなたは、なんらかの理由で「社会学っておもしろそう」と思ったからこそ、今、この本を開いているのだと思います。

 あなたがイメージした「社会学のおもしろさ」とは何なのでしょうか。イメージですから、それぞれの人がそれぞれのイメージをもっていることでしょう。「これが社会学のおもしろさです」と簡単にいうことはできないのですが、しいていえば「社会学的なものの見方•とらえ方」そのもの、「それを社会において実感できること」が社会学の魅力のひとつといえるかもしれません。

 実際に、社会学はとてもおもしろい学問です。しかし、はじめて学ぶ人に とっては社会学が扱う領域は広すぎて困ってしまうかもしれません。そこで、この本では、社会学の全体を整理して、「とらえやすく」しようと試みました。

 この本の2つ目の特徴は、各章が、2014年9月に日本学術会議の社会学委員会によって発表された、「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 社会学分野」(以下、「参照基準」とします)に基づいて構成されているということです。「参照基準」は、それぞれの学問を学ぶ学生が「何を身に付けることが期待されるのか」という問いに対して、「専門分野の教育という側面から一定の見解を提示する枠組み」(日本学術会議 2014:3)のことです。

 「参照基準」における「社会学を学ぶすべての学生が身につけることを目指すべき基本的な素養」のなかには、「社会を構成する諸領域」として14の領域があげられています(表0-1の「「参照基準 社会学分野」における諸領域」を参照)。社会学が扱う対象を示すものとして、とてもわかりやすいものだと思いましたので、この本でも、その14の領域を網羅した章立てにしました。

社会学を体験する

 3つ目の特徴は、「社会調査」のごく簡単な手ほどきもしているという点です。「社会」をとらえるために、社会学は「社会調査」という有効な手段•方法をもっています(社会調査については、「社会調査士」「専門社会調査士」という資格もあります(一般社団法人社会調査協会 2016))。社会調査(法)についての詳しい授業は、それぞれの大学において別に用意されていると思います。ここでは、その初歩的な手ほどきをしたのち疑似社会調査分析をしてもらえるように、第1章をのぞく各章で、社会調査の各種手法について紹介しています。また、各章の節の構成にも工夫をしています。

 第1節にあたる「問いを発見する」は、身近な話題から話をはじめ、そこから「問い」を発見するまでの過程を書いています。「問いを発見する」というのは、とても難しいことなのですが、第1章から第14章までを読んでいくと、だんだんそのコツをつかめるようになるでしょう。
 第2節にあたる「問いにしたことを調べる」は、前節の「問いを発見する」を受けながら、筆者による「問い」を提示し、そこに至るまでの経緯•過程を説明しています(表0-1の「具体的な問いの内容」を参照)。また、その「問い」を解いていくための資料の提示もしています。その資料には、新聞、ネット、雑誌、写真、公式統計、また筆者によって収集されたデータなどがあり、それについての説明や解説もされています(表0-1の「問いへのアプローチ」を参照)。
 第3節にあたる「調べたことを考察する」では、前節の「問いにしたことを調べる」を受け、「問い」に対して「資料」を使った社会学的考察がなされます。
 第4節にあたる「考察したことを理論化して深める」では、それまでのことをまとめ、理論化(社会学の理論と照らしあわせながら考察を深める作
業)がなされます。

 各節には、前述のように【ワーク】【グループワーク】【ホームワーク】が用意されています。

 4つの節で示す手順は、じつは、レポートを書く際の手順と同じです。「〇〇についてレポートを書きなさい」と先生から言われて困っていた人も、この本を使って学ぶことによって、「いつのまにか、(社会学的な)レポートを書くトレーニングができていた」となればうれしく思います。

 最後に、この本を作りはじめたときに、編者と編集者が考えていたことを少しだけ述べてみたいと思います。私たちは「社会学を学ぼうとしている学生/学びはじめた学生に、おもいっきり社会学を体験してもらいたいなぁ」という気持ちから、企画を立ち上げました。「社会学を体験する」を具体的に表すとどのようになるのだろうかという話しあいを何度も何度も重ねました。それから、私たちの気持ちや考えを共有してくれる先生たちに声をかけ、一緒に作ったのがこの本です。

 2017年に刊行した『基礎ゼミ 社会学』の「はじめに」では、おおよそ、このように書きました。第 2 版を出すにあたっても、その考え•思いは変わりません。この第2版はデータを新しくするだけでなく、社会の変化も反映すべく内容も見直しました。
 あなたが、アップデートされたこの本を通して、知る喜びと考える楽しみをいっぱい体験できますように。

編者を代表して 工藤保則


 

書籍情報は【こちら】から

目次

はじめに

第Ⅰ部 日常生活を問う
第1章 自分と他人の関係ってどんなもの?
 ――アイデンティティ、他者、まなざし(奥村隆)
第2章 家族ってどんな社会?
 ――親密性、第一次集団/第二次集団(柴田悠)
第3章 福祉や教育はどうやって決まる?
 ――福祉国家、大きな政府、社会規範(三谷はるよ)
第4章 地域社会は誰が作る?
 ――コミュニティ、アクションリサーチ、アーバニズム(笠井賢紀)
第5章 働くってどういうこと?
 ――官僚制、組織(阿部真大)

第Ⅱ部 身近な文化を問う
第6章 文化って何?
 ――風俗、考現学、消費社会(工藤保則)
第7章 私たちはメディアをどう使う?
 ――情報化、社会的性格、エコーチェンバー(白土由佳)
第8章 性を意識するのはどんなとき?
 ――ジェンダー、性別役割分業、セクシュアリティ(米澤泉)
第9章 エスニシティは他人事なの?
 ――グローバリゼーション、エスニシティ、民族関係(挽地康彦)

第Ⅲ部 社会につながる
第10章 格差がなくならないのはなぜ?
 ――不平等、学歴社会、階級・階層(吉川徹)
第11章 社会問題はどのようにして起こるの?
 ――社会問題、ラベリング、社会的コントロール(大山小夜)
第12章 私たちは社会を変えられるのか?
 ――NPO/NGO、ネットワーク、新しい社会運動(宮垣元)
第13章 自然環境といかに向きあうか?
 ――科学技術、リスク(青木聡子)
第14章 政治は誰のもの?
 ――選挙、民主主義、政治的社会化(西田亮介)

引用文献
索引

タグ

著者略歴

  1. 工藤 保則

    龍谷大学社会学部教授。主著に『46歳で父になった社会学者』(ミシマ社、2021年)、『はじめての社会調査』(共編著、世界思想社、2023年)など。

  2. 大山 小夜

    金城学院大学人間科学部教授。主著に『ウォール・ストリート支配の政治経済学』(共著、文眞堂、2020年)、「被害認識の論理と専門職の精神――過剰債務の社会運動から」(『社会学評論』71巻2号、2020年)など。

  3. 笠井 賢紀

    慶應義塾大学法学部准教授。主著に『共生の思想と作法――共によりよく生き続けるために』(共編著、法律文化社、2020 年)、『パブリック・ヒストリーの実践――オルタナティブで多声的な歴史を紡ぐ』(共編著、慶應義塾大学出版会、2025年)など。

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