『基礎ゼミ 宗教学〔第2版〕』はじめに――アクティブラーニングで宗教を学ぶ
本書のめざすもの
この本は、「宗教」をアクティブラーニングという手法で学ぶために作られた教科書です。教員が学生に向けて、宗教に関する知識や見方を伝える講義型の授業を想定した従来の教科書に対して、本書は学生の主体的・対話的な深い学びを重視するアクティブラーニング型の授業を提案しています。
数々のグループワーク(グループディスカッション、ポスターセッション、相互インタビュー、ディベート、シンク・ペア・シェア、KJ法、ジグソー法、ケースメソッド、ロールプレイ等)と個人ワークを通じて、宗教を多面的に分析する能力を高めるとともに、宗教情報リテラシー(宗教情報を批判的に読解する能力)を習得することをめざします(なお、アクティブラーニングの技法については中井俊樹編『アクティブラーニング』玉川大学出版部、2015 年を参考にしました)。
また、自分の見解や分析をグループのなかで発表し、レポートにまとめるためのプレゼンテーション能力や思考力を育むことも本書の目的です。
では、なぜ今、アクティブラーニングで宗教を学ぶことが必要なのでしょうか?
注目されるアクティブラーニング
まず、「アクティブラーニング」の定義を確認しておきましょう。たとえば、教育学者の溝上慎一は、次のように定義しています。
(『アクティブラーニングと教授学習パラダイムの転換』東信堂、2014 年)
アクティブラーニングは「能動的学習」「主体的学び」などと訳されるように、学生みずからの「書く・話す・発表する」行為が基本になります。ただし、この言葉が日本社会で普及するようになったのは、近年のことです。もともとは1980~90 年代にアメリカの高等教育改革のなかで草の根的に普及したものが日本に伝わりました。当初はごく一部の大学で実践されてきましたが、今では国内の多くの大学で取り入れられています。
宗教を学ぶことの重要性
ここで、(大学生・短大生であれば)みなさんが小学校から高校までの間に、どれだけ宗教のことを学んできたのかを振り返ってみてください。公立の小中学校では集中的に宗教を学ぶ機会はほとんどなく、宗教系の学校に通うか、信仰熱心な家庭で育ったのでなければ、宗教を学ぶ機会は少なかったはずです(第7章参照)。
では、宗教を学ぶ必要はないのでしょうか? たしかに、日本人と宗教のかかわりは薄いかもしれません。世論調査によれば、現代の日本人で信仰をもっている人の割合は約3割です(第1章)。ですが、日本人がまったく宗教や宗教的なものにかかわっていないのかというと、じつはそうでもないのです。たとえば、お盆やお彼岸など、日本人の約7割がお墓参りに行きます(第13章)。
また、お祭り(第5章)や成人式などの通過儀礼(第4章)を体験した人は少なくないでしょう。くわえて、グローバル化した現代社会では、移民の文化や宗教に対する理解が不可欠です(第12章)。
こうして自分たちの生活や社会、さらには世界を見渡したとき、むしろ、宗教とのかかわりは欠かせません。現代世界を生きていくうえで、自分と宗教のかかわり、宗教と社会の関係、地域社会の文化や伝統の変化、外国人の文化や信仰(第11章)、海外の宗教動向(第10章)など、宗教をめぐる問題を学ぶことはとても重要です。こうした問題に対して、自分なりの意見や主張をはっきりともつためにはアクティブラーニングが有効である、と私たち編者は考えます。
本書での学び方
では、本書での学び方を説明しましょう。
各章のタイトルは、「「宗教」はどのようにイメージされるのか?」(第1章)のような問いになっており、この問いに対する自分たちなりの答えを導くために、グループワークを行います。さらに、各章に自分で行うワークも2つ用意しました(ワークシートは巻末に掲載)。つまり、本書では個人ワークとグループワークによるアクティブラーニングを行うことで、学びを深めてもらいます。
まず、第1節は導入にあたり、学習のポイントと到達点が記されています(ここで、【ワーク1】を行う。場合によっては事前学習)。第2節は問いの解説に相当し、問いの背景や意図、概念の定義、基本事項などが説明されています。第3節ではグループワークが提示され、その位置づけやねらい、具体的な授業展開が解説されています。
グループワークの具体的なイメージを理解していただくため、編者
受講者数は50名で、1グループ4名前後で、12グループにわかれて作業しました。まず、自分たちの考える理想のお墓をグループごとに話しあい、その結果をマジックとクレヨンを使ってポスターに表現します(ポスターには自分たちの考えたお墓のテーマとお墓のイラストを書く)。次にグループの代表がその場に残り、それをプレゼンテーションしました(代表以外のメンバーは他グループの作品を見学するために教室を巡回)。
このようなグループワークを踏まえて、第4節のまとめに入ります。宗教学・宗教社会学的な分析視点によるワークの解答例が示され、その章の分野の最新の研究動向やさらなる研究課題が提示されています。最後に【ワーク2】ポスターセッションによるグループワーク完成した作品のプレゼンテーションでは、その章の学びの振り返りを個々人で行うしくみになっています。
章末にはキーワード解説をつけるとともに、さらに学びたい人のためにブックガイドも用意しています。章によっては巻末に参考資料も掲載しました。
「知らない人どうしだと自分とは違った見方が多く、楽しかった。さまざまな考えをもつようになったのでよかった」。
これは、先に紹介した私の授業を受講した学生の感想です。
アクティブラーニングで宗教を学ぶことによって、学ぶことの楽しさを感じながら、宗教に対するみなさんの理解が深まり、本書で取り上げられている諸問題に対する自分なりの意見や主張が明確になることを願ってやみません。
第2版のための補足
2017 年に出版された本書(初版)は、さまざまな大学や教育機関の宗教学関係の授業で活用され、ありがたいことに刷を重ねることができました。刊行から年数が経ったこともあり、今回、第2版を刊行することになりました。
最新の宗教状況や宗教問題に即して各章の内容や巻末資料等を見直し、参考文献も更新しています。また、新しい試みとして、対面授業用のワークシートとは別にオンライン授業用/独習用のワークシートを作成することにしました。
周知の通り、2020 年1月以降、日本国内でも新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がまん延し、大学では対面授業がオンライン授業に切り替えられました。今後、(コロナ禍以外の場面も含めて)オンライン授業や1人で学習する場合を想定しました。そのワークシートは、ⅱページのURLまたは2次元コードから申請できますので、ご活用いただければと思います。
現在も世界中で宗教をめぐるさまざまな事態や問題が見られます。現代世界を理解するうえで、宗教への理解や認識を身につけ、自分なりの考えをもつことが不可欠です。本書を通じて宗教に関する学びを深めていただければと思います。
(編者 大谷栄一)
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【目次】
はじめに――アクティブラーニングで宗教を学ぶ
第Ⅰ部 「宗教」のイメージをとらえなおそう!
第1章 「宗教」はどのようにイメージされるのか?
――「信仰のない宗教」、宗教情報リテラシー、「宗教」概念(大谷栄一)
第2章 お寺や神社、教会はどういう場所なのか?
――過疎、人口減少社会、ソーシャル・キャピタル(板井正斉)
第3章 社会にとって宗教団体とはどんな存在か?
――宗教法人法、政教分離、宗教団体の社会参加(大澤広嗣)
第Ⅱ部 あなたの身近な宗教体験を分析しよう!
第4章 なぜ「成人式」を行うのだろうか?
――信仰、アイデンティティ、通過儀礼(相澤秀生)
第5章 お祭りにはどんな意味がある?
――祭祀、祝祭、コミュニティ文化(藤本頼生)
第6章 巡礼者は何を求めて聖地に向かうのか?
――聖地、世界遺産、真正性(碧海寿広)
第Ⅲ部 現代宗教の争点を読み解こう!
第7章 いのちを教えることができるのか?
――寛容の態度、宗教文化教育、教科としての道徳(川又俊則)
第8章 「女人禁制」はつづけるべきか?
――霊山、ジェンダー、家父長制(小林奈央子)
第9章 「カルト問題」にどう向きあうか?
――カルト、偽装勧誘、マインド・コントロール(塚田穂高)
第Ⅳ部 宗教から多文化主義を考えてみよう!
第10章 公共領域から(どれだけ)宗教を排除すべきか?
――政教分離、世俗主義、市民宗教(藤本龍児)
第11章 ヴェールはなぜ問題となるのか?
――オリエンタリズム、ポストコロニアル、フェミニズム(猪瀬優理)
第12章 日本社会は移民とどう向きあうのか?
――入国管理法、多文化共生、エスニシティ(白波瀬達也)
第Ⅴ部 死を見つめなおすために
第13章 なぜ墓参りをするのか?
――先祖/祖先、葬後儀礼、両墓制(川又俊則)
第14章 戦没者をどこで追悼する?
――靖国問題、「戦争の記憶」、コメモレイション(大谷栄一)
第15章 被災者は宗教に何を求めるか?
――「心のケア」、臨床宗教師、霊性(黒崎浩行)
引用文献一覧/紹介マップ・動画一覧
あとがき
巻末資料/ワークシート/索引