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『基礎ゼミ メディアスタディーズ〔第2版〕』はしがき

メディアへの関心を研究につなげる

 スマートフォンが普及してずいぶん時間が経ちました。今ではスマホに限らず、PC、カーナビなどさまざまなデバイスに生成AI がインストールされています。メディアを研究スタディーズするということは、こういった新しいメディアや、それを成立させているテクノロジーを研究することだと思われる場合が少なくありません。
 
 昨今、メディア系学部・学科に限らず、さまざまな学部の学生が「メディア研究」に関心を持っています。日常的に触れているメディアを研究対象に選ぶことはごく自然なことなのでしょう。

 しかしながら、「メディアに関心があります」という学生たちでも、いざ研究を始めようとすると、どのような順序で取り組み、どのような問いを立てればよいのかなど、その難しさに直面することがあります。

 自分の関心や好み、あるいは最新のメディアをそのまま研究しようとしても、多くの人がなんとなくイメージしていることや、自分の関心のある媒体、コンテンツについて漠然と考えるにとどまってしまうことがあります。まず大事なのは、自分の問いを言葉にしてみる、自分が問いを持った動機や背景を考える、問いが社会のどのような出来事や問題と関連しているのかを考えるといったことに意識的に取り組み、「自分の問い」を明確に、より強固にしていくことかと考えます。

 本書には、さまざまな視点、方法でメディアを研究してきた各執筆者のテーマが並んでいます。しかしながら、そういった研究成果を教養や知識として「教える」ことが目的ではありません。本書では、それぞれの執筆者がこれまでの研究や教育のなかで試行錯誤してきた経験に基づき、問いの立て方、理論や歴史的な資料の使い方、調査方法などをあくまでも一つの事例として提示しています。本書の目的は、これらを参考に読者がみずから問いを持ち、自分でメディア研究に取り組む一助となることです。

 また、各章にはそのテーマを通じて取り組んでほしいワークを盛り込んでいます。ワークには、個人で取り組むものと複数で取り組むものがあり、下記のようにアイコンで示しています。ただし、これらは目安ですので、それぞれの状況にあわせて柔軟に取り組んでください(ワークシートについても、個別の状況に応じて拡大したり、ⅱページの二次元コードから読み込んでデバイス上で使用するなど、自由に使ってください)。

本書の目的のもう一つは、ワークに取り組むことで、「自分ならこう考える」「ここをもっと知りたい」という問いや考察をさらに広げてもらうことです。

 社会学者の吉見俊哉は、『大学とは何か』のなかで、1991 年に始まる国の「大学改革」の結果、現在の大学での学びが「自由な対話」や「学問」とはほど遠いものになっていると指摘しています(吉見 2011)。「何かのため」といった即自的な報酬に基づいた動機が、教える側にも、また学生たちにも広くいきわたっているのではないでしょうか。
 
 先に、自分が好きなコンテンツについて漠然と考えるだけでなく、自分なりの問いを持ち、それを社会的な背景と結びつけることの重要性に触れました。イギリスのメディア研究者、R. シルバーストーンは、メディア研究の意義について次のように述べています(〔 〕内は引用者による補足)。

それ〔メディア研究〕は、個人と集団へ向けられたその関心において人間的でなければならない。それは、社会的・歴史的な特殊性に敏感で、技術決定論、社会決定論の専制を拒否する明確な論理を設定する点で人間的でなければならない。それは、社会科学と人文科学の境界線に進路を取ることを試みるだろう。
(R. シルバーストーン『なぜメディア研究か――経験・テクスト・他者』吉見俊哉・伊藤守・土橋臣吾訳、せりか書房、2003年)

この論点が示唆しているのは、メディアが個人の「好み」をつくりあげることに注目するだけではなく、個人の問いや関心を、その個人の置かれた社会的、歴史的な文脈のなかでとらえなおし、メディアを通じた人間の営みへと関心を広げる必要があるということです(この点については、序章で詳しく検討します)。

本書の構成

 本書は4 部(+序章・終章)構成をとっています。従来のメディア研究のテキストでは、「新聞」「テレビ」「インターネット」といった、メディア産業に規定された配置になることがありましたが、本書では、そのような配置が自明としてきた区別を注意深くとらえなおしています。

 第Ⅰ部「プラットフォームから社会を見る」は、従来のマスメディアとは仕組みが異なるデジタルメディアの新たな性質、つまり状況によって常にみずから変化していく性質――メディアの再帰性(序章参照)――をテーマにしています。それらは新たな表現活動や社会運動などを生みだす一方で、従来のメディア研究ではとらえきれない現象やさまざまな社会問題を生みだしてもいます。プラットフォームメディアの研究は、その後、プラットフォーム資本主義というより大きなとらえ方がなされるようになっています。

 第Ⅱ部は「《home》からメディアを見る」としています。テレビジョンというメディアは、家庭や住居でメディアを経験するという営みを短い期間でグローバルな規模に広げました。「スイートホーム」や「マイホーム」という言葉を思い浮かべてみましょう。《home》は懐かしさや愛着などの感情と結びついています。テレビは家庭が安心できる場所であることを提示してきました。反対に、《home》でのメディア経験は、家庭の外側の世界を外部として区別し、不安を呼び起こすものとして意識させることが指摘されています(シルバーストーン 2003:196-197)。この安心と不安を、テレビや新聞はどう表象し、オーディエンスはどう読むのか、ジェンダー、障害、犯罪、食を例に議論しています。

 第Ⅲ部「メディアで境界を越える」は、メディアによって国境や人間の区別を「越境する」という営みに迫るものです。これは、社会科学と人文科学の境界線を縫うように進むチャレンジングな試みですが、ポピュラー文化やスポーツといった、一見すると〈政治〉と無関係に見えるものを対象にしても、明確な問いや批判的なものの見方があれば探究につながるということを例示しています。

 第Ⅳ部は「メディアで記録/記憶する」としています。個人化、身体化したウェアラブルメディアを使って人々はみずからの行動や実践の何を記録し、記憶しているのでしょうか。自分自身のこれまでのメディア接触や現在の情報行動から、グローバルな世界の状況に至るまで、さらにはその関連についてとらえなおす機会となるでしょう。

 さらに、序章では、先ほどの「メディアを通じた人間の営み」がいかなるものかを、メディア研究の歴史を通じて明らかにしています。一方終章では、読者が実際にメディア研究に取り組むための方法を整理し、そのプロセスをわかりやすく提示しています。

 必ずしも章の順番通りに読むのではなく、読者の関心や必要に応じて、気になる章から読んでもらえたらと思います。

第2版に寄せて

 本書の第1 版が出版されたのは2020 年4 月でした。この間にグローバルな規模での大きな出来事がいくつもありました。同年には新型コロナウイルスによるパンデミックが広がっていきました。2022 年にはロシアによるウクライナ侵攻、2023 年にはイスラエルとパレスチナの戦争が始まりましたが、これらは世界的な規模で安全保障の危機や食料、エネルギー、物価といった生活の危機にもつながっています。登場したばかりだった生成AI は、今では、教育、研究から軍事に至るまで、さまざまな領域で使用されています。

 このような大きな変化を受け、第2版では新たな章として、第15章「メディアは戦争をどう映すのか?」を加えました。また、この間の社会の変化をとらえ、内容を大幅に加筆・修正している章もあります。そのほかにも全体を通じて、可能な限り、データや事例を差し替えています。

岡井崇之


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【目次】

はしがき

序章 なぜメディアを研究するのか?
 ――複雑な世界をとらえるために(岡井崇之)

第Ⅰ部 プラットフォームから社会を見る
第1章 ネットは「みんなの声」を伝えているか?
 ――情報の選択的接触、エコーチェンバー、世論の分極化(辻大介)
第2章 フェイクニュースはなぜ広がるのか?
 ――フェイクニュース、生成AI、ソーシャルメディア(藤代裕之)
第3章 スマートフォンは写真をどう変えたのか?
 ――写真史、ヴァナキュラー、プラットフォーム資本主義(増田展大)
第4章 美容整形は個人的なことか?
 ――身体の社会学、言説、テキストマイニング(谷本奈穂)

第Ⅱ部 《home》からメディアを見る
第5章 CMのジェンダー表現はどう問い直せる?
 ――性役割規範、客体化、ポストフェミニズム(柳志旼・村田玲子・田中東子)
第6章 障害者は「がんばる人」なのか?
 ――テレビ表象、感動ポルノ、障害学(前田拓也)
第7章 女性被害者は本当に多いのか?
 ――客観的現実、ラベリング、ジェンダーバイアス(四方由美)
第8章 私たちの不安は検索で解消されるのか?
 ――信頼、リスク報道、食の社会学(柄本三代子)

第Ⅲ部 メディアで境界を越える
第9章 「外国人」選手はなぜ特別視されるのか?
 ――異文化表象、南北格差、スポーツにおける人種化(窪田暁)
第10章 クールジャパンって本当にクールなの?
 ――国家ブランディング、グローバル化、セルフ・オリエンタリズム(大山真司)
第11章 K-POPは誰のものか? 
 ――ポピュラー音楽のジャンル、ファンダム、文化コンテンツの越境(喜多満里花)

第Ⅳ部 メディアで記録/記憶する
第12章 地図アプリは世界を描いているか?
 ――パーソナライゼーション、監視社会、場所性(松岡慧祐)
第13章 メディア経験から何がわかるのか?
 ――オーディエンス、アイデンティティ、ライフストーリー(池上賢)
第14章 地域の記憶は誰のものか?
 ――地域創生、ステレオタイプ、デジタルストーリーテリング(土屋祐子)
第15章 メディアは戦争をどう映すのか?
 ――ウクライナ侵攻、間メディア社会、アイデンティティ・ポリティクス(遠藤薫)

終章 「メディアスタディーズ」の現在とは?
 ――批判的思考に裏づけられたレポート作成のために(石田佐恵子)

引用文献一覧
紹介動画・画像一覧
索引

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著者略歴

  1. 石田 佐恵子

    大阪公立大学大学院文学研究科教授。主著に『有名性という文化装置』(勁草書房、1998年)、『クイズ文化の社会学』(共編著、世界思想社、2003 年)、『ポピュラー文化ミュージアム――文化の収集・共有・消費』(共編著、ミネルヴァ書房、2013 年)など。

  2. 岡井 崇之

    奈良県立大学地域創造学部教授。主著に『アーバンカルチャーズ――誘惑する都市文化、記憶する都市文化』(編著、晃洋書房、2019 年)、『郷土食が紡ぐ新たな物語――グローバル化した世界で私たちはなにを食べているのか』(共編著、風塵社、2024 年)など。

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