『「みんな」って誰?』はじめに
はじめに
「世の中これからどうなるんだろう」、「日本社会の未来って、なんだか不安だなあ」そんな気持ちをいだくことはありませんか? のっけからそんな不景気な話やめてくれよと思ったあなた、ちょっと待って。この本は、そんな不景気な話を景気のよい話でごまかすのではなくて、世の中が右肩下がりになっても、それでも気もちよくのびのびと生きていくことができるとしたら、それはどのようにできるんだろうか考えるために書きました。
ヒントをくれるのは、災害に見舞われた被災地。それも、災害がおきる前から、人口減少や高齢化が進んでいて、災害からの復興にあたっても、明るい未来を描くことが難しかったような被災地です。被災地では、最初は、もうだめなんじゃないかという諦め感や無力感がただよっていました。けれど、さまざまな取り組みのうちに、雰囲気が変化していきます。やがて、人口減少がとまったわけでもないし、高齢化もいっそう進んでいるのに、被災した人が「復興した」、「過疎がとまった」と胸をはるようになりました。それはなぜなのか。ここに、右肩下がりの時代をすこやかに生きていくヒントがあると思います。
なので、副題にあるように、この本はたしかに災害復興の現場をおもにあつかっているのですが、そこから考えたいのは、災害復興のことだけでなく、右肩上がりに「よくなっていく」ことが想定しづらいことがらについて、私たちがどのように向きあえるのかです。だから、災害に興味がない人でも、たとえば、過疎地域でどのように生きていくか、お年寄りがどうやって人生を全うできるか、学校に行くことが難しい子どもたちの居場所をどうつくるか、生活に困っている人をどのように支えられるのか、というようなことに関心がある人にも手に取ってもらえるとうれしいです。
右肩下がりの時代をどのように生きていくのか、このようなテーマを、本書ではグループ・ダイナミックスという学問を通して考えます。学問だなんていうとまた大げさなんですが、本書で紹介するのはグループ・ダイナミックスの初歩の初歩の考え方です。初歩の初歩じゃあ理解してもあんまりアテにならないのかというと、決してそうではありません。グループ・ダイナミックスの基本的な考え方を知ると、たいそうなことしなくても、今すぐにできることで、組織や地域に変化をおこすことが可能になります。そのためのツールについても、具体的に紹介します。ですので、この本は、災害をふくめた社会問題にかかわっている研究者、研究を志す方だけでなく、そのような現場にかかわっている方、そのような現場に直面してしまった方にもご覧いただけるように書きました。
お願いをひとつだけ。この本では、できるだけ読者のみなさんと対話をするような形で進めていきたいと思っています。対話といったって、みなさんが私からの呼びかけに何て応えてくださるのか、もちろん、この文章を書いている私にはわかりません。けれど、私が一方的にお話ししていくというよりも、時には、私から問いかけをして、それについて、読者のみなさんにも、ちょっと間をおいて考えてもらうような、そんな読み方をしてもらえるとうれしいのです。ですから、ちょっと間をおいてほしいときには、次のようなイラストに登場してもらいます。このポーズを見たら、ちょっと立ちどまって、考えてもらえるとうれしいです。
それでは、お話をはじめましょう。
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目次
はじめに
序 章 裸の王さま再考
――みんなのグループ・ダイナミックスとは?
第1章 右肩下がりの被災地で復興にのぞむ
――新潟県中越地震のエスノグラフィ
第2章 支援がつまずくとき
――「めざす」かかわりと「すごす」かかわり
第3章 地域が自ら変わるには?
――内発的であるということ
第4章 集団を変化させるには?
――みんなの前でことばにする
第5章 見なかったことにしないとすれば?
――集合的否認と両論併記
終 章 ひとごとからわれわれごとへ
――災間を豊かに生きる
注
おわりに