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子どもや若者の〈声〉が響く社会を――アートディレクター小山田育が語る『子どもたちがつくる町』

「日雇い労働者の町」と呼ばれる大阪・西成にしなりを「子どもの町」という視点から描いた『子どもたちがつくる町 大阪・西成の子育て支援』(村上靖彦著)。この本のデザインを手がけたHI(NY)ハイニューヨーク小山田育おやまだいくさんに、デザインに込めた思いや、日本の子ども支援について考えていることをうかがいました。

小山田育さんHI(NY) 小山田育さん。主な仕事に、米国コカコーラの新商品ブランディング&パッケージデザイン、国連の展示会デザインなど。共著に『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』(クロスメディア・パブリッシング)

 

カラフルでエネルギッシュな西成

Q. この本はどういうコンセプトでデザインされたのですか?

西成に初めて行った時に強烈に感じた、町や人々のエネルギーを表現したいと思いました。

わたしは人種のるつぼ、ニューヨークに20年以上いて、また、南米コロンビアにも縁が深いのですが、西成ではニューヨークやコロンビアにいるときに感じるような、混沌とした中の活き活きと人間らしいエネルギッシュな印象を受けました。もちろんネガティブな感情や暗さも根底にはあります。しかし、それを押しのけるような等身大の人間の明るく力強いエネルギーは、慣れ親しんだものとよく似ていて、とても居心地が良く、どんな自分でも受け入れられるんだとホッと安心できました。

このようなカラフルでエネルギッシュな印象を表現していきたいと思い、まずはこんなパーソナリティをもったビジュアルにしたいということをムードボード(デザインの方向性や雰囲気を画像でコラージュしてまとめたもの)で表現し、出版社の方や著者の村上靖彦先生に共有しました。ただ、イタリアとニューヨークにいる弊社のデザイナーにこの体感ベースのニュアンスを伝えるのが難しく、なかなか納得できるものが表現できず、カバーデザインを共有するまでに20以上の案を作成することになりました。

膨大な数の初期のカバーデザイン案 (一部)

 

本の印象を表すキーワードをまとめた資料

 

次第に絞られてきたカバーデザイン案

  

アートワークのテーマとして一番大切にしたかったのは、子どもたちの〈声〉でした。西成の支援は子どものニーズから作り上げられています。なので、家庭という枠の中での外からは見えない困難、ネガティブな感情、そこから発する子どもからのSOS、その声を聴き、すくいあげてつなげていく支援、その中での子どもらしさや希望など、そういった混ざり合ったものを、西成で感じたカラフルで力強い印象に包んで表現しました。

最終的なカバーデザイン。さまざまな〈声〉のモチーフが散りばめられている

 

カバーだけではなく、各章の扉でも子どもたちの〈声〉が表現されている

 

みんなの子どもたち

アメリカにはラップアラウンド(Wraparound)という家族再統合のアプローチがあります。困難を抱える子どもとその家族を地域で包み込むように支援ネットワークをつくっていくものです。このアプローチでは専門職だけではなく、その家族の友人や子どもの学校の先生といった自然な形で繋がっている人々が家族に寄り添い、また、このシステムを過去に利用した当事者が自分の経験を活かしながらプロフェッショナルとしての訓練を受けピアとして参加して、みんなでサポートしていきます。

このラップアラウンドをどうにか日本での実装に繋げられないかと、花園大学の久保樹里先生を中心に一緒に取り組んでいるのですが、『子どもたちがつくる町』第1章の舞台である西成の「こどもの里」が自然な形でラップアラウンドのようになっているということで、久保先生に「こどもの里」に連れていっていただきました。その時に一緒に来てくださったのが著者の村上先生で、こどもの里以外にも「にしなり☆こども食堂」や長橋小学校なども見せていただき、その際にこの本の装丁のお話をいただきました。

本の内容を伺い、これは子育て支援に関わる人々にとってはインスピレーションとなり、また、そうでない人々にとっても価値観がアップデートされるような、いまの変革の時代に必要な本になると思い、微力ながら参加させていただきました。

 

Q. 小山田さんご自身は、現在、どのような子ども支援に取り組まれているのですか?

いま、先述の久保樹里先生と一緒に取り組んでいるのが、アロケア(Allocare)が可能な社会を目指すプロジェクトです。アロケアとは、アロマザリング(Allomothering)と類似の概念で、哺乳類や鳥類にみられる、子どもの実親(主として母親を指す)ではないグループメンバーが子育てをするという代替養育行動を指します。これを人間にあてはめ、子どもの養育を実親の「自己責任」で切り捨ててしまわず、みんなで支え合って子どもや若者を育んでいける社会をつくりたいという思いで、できることから始めています。

鍵となるのは、当事者参画です。困難な状況を経験した当事者ユースと協働することで、子どもやユースのニーズから必要なサポートを一緒につくりあげていきます。ラップアラウンドは行政や司法が関与する可能性が高くなるプロジェクトなので、実装までに長い準備期間を要しますが、並行してアロケアを軸としたプロジェクトも進めていく予定です。行政や補助金だけに頼らないサステイナブルなビジネスモデルを目指して、企業と一緒にいろいろな取り組みも進めています。

現在は、京都の無添加お出汁の老舗である東寺うね乃さんとの協働で、アロケアを取り入れたフリースタイルのお出汁のお惣菜店「ALLOUNENO(アロウネノ)」を今夏オープン予定です。うね乃さんは、社長である釆野元英さんと佳子さんのご夫婦を中心に、「食育」に長年取り組まれてきました。このアロウネノでは、生きる基盤となる食を入り口に、家族を頼ることができなかったり、困難を抱えたりしている若者も安心して働けるようにみんなで支え合い、安心できる居場所をつくっていきます。安全基地ができ、守られていると感じることで、一歩踏み出し、夢を描き、その夢に向かって自分らしく生きていけるよう柔軟にサポートしていきます。

子どもの希望格差

もちろん、教育格差なども問題ですが、一番大きな問題は、子どもや若者が夢をみることができない希望格差があることです。

日本はセカンドチャンスが与えられにくい社会だと思います。子どもは育つ環境を選べません。そんな中、一度つまずいてしまったらそのままずっと転がり落ちていくのではなく、セカンドチャンスが何度でもつかめて、夢や希望を持った人生を歩んでいけるような社会になってほしいと切に願っています。


Q. どのような方々に、この本を読んでほしいですか?

子育て支援に関わる方々はもちろん、社会の変革を目指す方々、特にこれから日本をつくっていく若い世代に読んでほしいです。西成には、この本にでてくるような力強い支援者がたくさんいて、その方達のパッションや行動力が土台となり、地域でつながっていっています。この本に描かれている西成の支援は、きっと、みなさんの価値観や行動を変えるインスピレーションとなり、突破口をみつけるきっかけになると思います。

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著者略歴

  1. 小山田 育

    HI(NY)共同代表、クリエイティブ・ディレクター/アートディレクター。2008年、渡邊デルーカ瞳とニューヨークにクリエイティブ・エージェンシーHI(NY)を設立。アメリカ、ヨーロッパ、中東、南米、アジアの様々なブランディングやデザインに携わる。主な仕事に、米国コカコーラの新商品ブランディング&パッケージデザイン、国連の展示会デザインなど。国内での近年の仕事に、Waphyto、Snaq.meなど。アトランタのHigh MuseumやパリのColetteにて展覧会に参加。One Show, Graphis, GD USAなど多数受賞。AIGA会員、NY アートディレクターズクラブ会員。共著『ニューヨークのアートディレクターがいま、日本のビジネスリーダーに伝えたいこと』(クロスメディア・パブリッシング)。www.hinydesign.com

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